借金返済|外資企業のストックオプションに対する課税の取り扱いとは?

平成
13
被告

主文

1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1 請求

1 豊能税務署長が原告に対し平成15年10月31日付けでした平成12年分所得税の更正処分(ただし,同税務署長が原告に対し平成17年11月2日付けでした同所得税の再更正処分により一部取り消された後のもの)のうち総所得金額が1762万5883円を超える部分及び同税務署長が原告に対し平成15年10月31日付けでした過少申告加算税賦課決定処分(ただし,同税務署長が原告に対し平成17年11月2日付けでした過少申告加算税の変更決定処分により一部取り消された後のもの)を取り消す。
2 豊能税務署長が平成15年10月31日付けでした原告の平成13年分の所得税の更正処分(ただし,同税務署長が原告に対し平成17年11月2日付けでした同所得税の再更正処分により一部取り消された後のもの)のうち総所得金額が1971万5279円を超える部分及び同税務署長が平成15年10月31日付けでした原告に対する過少申告加算税賦課決定処分(ただし,同税務署長が原告に対し平成17年11月2日付けでした過少申告加算税の変更決定処分により一部取り消された後のもの)を取り消す。

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第2 事案の概要

1 本件は,勤務先の外国法人である親会社の株式を無償で取得することができる権利(ストックアワード)を付与されていた原告が当該権利に係る株式を平成12年に売却して得た利益を給与所得として平成12年分の所得税の確定申告をし,上記株式を平成13年に売却して得た利益を一時所得として平成13年分の所得税の確定申告をしたところ,豊能税務署長が,原告は上記権利の権利確定時にその時点における上記株式の時価相当額の経済的利益を取得し,当該経済的利益は給与所得に該当するとして,上記各所得税の更正処分(以下「本件各更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件各賦課決定処分」という。)をしたため,原告が,本件各更正処分及び本件各賦課決定処分(ただし,本訴提起後に豊能税務署長がした上記各所得税の再更正処分及び本件各賦課決定処分の変更決定処分により取り消された部分を除く。)の取消しを求めた事案である。
2 法令等の定め
(1) 所得税法36条1項は,その年分の各種所得の金額の計算上収入金額とすべき金額又は総収入金額に算入すべき金額は,別段の定めがあるものを除き,その年において収入すべき金額(金銭以外の物又は権利その他経済的な利益をもって収入する場合には,その金銭以外の物又は権利その他経済的な利益の価額)とする旨規定し,同条2項は,同条1項の金銭以外の物又は権利その他経済的な利益の価額は,当該物若しくは権利を取得し,又は当該利益を享受する時における価額とする旨規定する。
(2) 所得税法28条1項は,給与所得とは,俸給,給料,賃金,歳費及び賞与並びにこれらの性質を有する給与に係る所得をいう旨規定する。
(3) 所得税法34条1項は,一時所得とは,利子所得,配当所得,不動産所得,事業所得,給与所得,退職所得,山林所得及び譲渡所得以外の所得のうち,営利を目的とする継続的行為から生じた所得以外の一時の所得で労務その他の役務又は資産の譲渡の対価としての性質を有しないものをいう旨規定する。
(4) 所得税法30条1項は,退職所得とは,退職手当,一時恩給その他の退職により一時に受ける給与及びこれらの性質を有する給与に係る所得をいう旨規定する。
3 前提事実
(1) 当事者等
ア 昭和24年に世界の主要航空会社によって設立された非営利共同体であるP1は,昭和47年,航空会社に対して顧客サイト機器などを供給する会社P2を設立した。
P1は,平成7年,P3(以下「P3社」という。)を設立した。
P1は,平成7年,P3社の株式をP4財団に譲渡し,P4財団は,譲渡を受けたP3社の株式のうち14.3%を従業員信託のために所有することとなった。
同年,P1とP3社は,ネットワークの共同所有,運営管理を定めた共同事業契約を締結した。
平成10年,P3社は,P5(以下「P5社」という。)に社名を変更した。
また,P2は,P6に社名を変更した。
P5社は,平成10年,ニューヨーク証券取引所及びパリ証券取引所において新規株式公開を行った。
P5社は,平成17年5月25日,P7(以下「P7社」という。)の完全子会社となった(乙2,16)。
イ 昭和51年2月,P1の日本における技術部門としてP8株式会社という。)が設立された。
P8株式会社は,平成10年6月,その商号をP9株式会社に変更した。
P9株式会社は,平成13年4月,その商号をP10株式会社に変更し,同年11月2日,P11株式会社に吸収合併された。
P11株式会社は,平成13年11月,その商号をP12株式会社に変更し,その後,平成15年7月1日,その商号をP13株式会社に変更した(以下,P8株式会社,その商号変更後のP9株式会社,その商号変更後のP10株式会社,同社を吸収合併した後のP12株式会社及びその商号変更後のP13株式会社をいずれも「P14社」という。)。
P14社の株式の100%をP5社が間接的に保有している。
ウ 原告は,昭和57年4月1日,P14社(P8株式会社)に雇用され,平成2年10月1日から同社のP15支店ネットワーク営業部部長を務め,平成8年11月1日,P16本社マーケティング企画室長理事に就任するとともにリージョナル・マーケティング・ダイレクターに就任し,平成9年3月24日,同社の取締役に就任した(甲12)。
なお,原告は,P5社とは何らの雇用関係も委任関係もない。
原告は,平成12年12月31日,P14社の取締役を辞任して同日同社を退社した。
(2) 本件アワードの仕組み
ア P17・グループ(P1,P5社(P3社)及びその各子会社等をいう。
以下同じ。)は,平成7年から,同グループの各社に雇用される従業員等に対しP5社の株式を無償で取得することができる権利(ストックアワード)を付与する従業員株式報奨制度としてのアワード・プランを実施してきた(同アワード・プランを「本件アワード・プラン」といい,本件アワード・プランに基づき従業員に付与される上記権利(ストックアワード)を「本件アワード」という。)。
イ 本件アワードには,通常報奨と任意報奨(「任意アワード」ということがある。)とがある。
ウ P1作成の「A Guide to the Award Plan」(甲6,乙3)には,通常報奨について大要次のとおり記述されている。
(ア) アワード・プランを開始するためにP5社の最大株主であるP4財団の証書(certificate)は従業員信託に移管された。
最終的にはこれらの証書はP5社の株式に転換されることになる。
株式への転換はP4財団の解散時に行われる。
なお,各証書は,P5社の普通株式を20株取得することができる権利を表わしているとされる(乙2)。
(イ) 証書のアワードは,P17・グループの各社に雇用されフルタイム又はパートタイムで勤務する正規の従業員に対し,4回の資格基準日,すなわち,1995年(平成7年)11月30日,1996年(平成8年)11月30日,1997年(平成9年)11月30日及び1998年(平成10年)11月30日に応じて付与される。
証書のアワードは,無償で付与される。
それぞれの有資格従業員に付与される1回当たりの証書の数は,割当可能な証書の総数に当該従業員の年間給与額(米ドル換算)の全有資格従業員の年間給与の総額に占める割合(前者を後者で除したもの)を乗じて算定される。
初回のアワードのみ資格基準日において勤続年数10年以上の従業員には年間給与額が勤続年数に応じて25%又は50%の率で増額される。
(ウ) 従業員は,証書又は株式が「vest」(その意味内容について後記のとおり争いがある。)し,かつ,それらを売却することができる市場が存在するとき,それらの一部又はすべてを売却して金銭的利益を実現することができる。
証書又は株式は,該当する資格基準日から3年が経過し,証書が株式に転換されているか又は譲渡可能となり,かつ,受託者からアワード・プランに加入している特定の従業員へのアワードの通知又は送付状に規定されている条件(特定の国にかかわる条件等)が満たされたときに,「vest」される。
P4財団の解散後,P5社の株式が証券取引所に上場され,「vest」した株式を売却するための市場が生み出される。
(エ) 従業員が「vest」により証書又は株式の受益所有権(「beneficial ownership」)を得る一方,「vest」された証書又は株式の法的所有権(「legal ownership」)は受託者のもとに残る。
しかし,受託者は,通常,従業員の指示に従って行動する。
たとえば,依頼があれば従業員に代わって証書又は株式の売却を行う。
株式上場がされた場合,従業員は,上場後の任意の時点において,受託者に対し,「vest」された株式の法的所有権を自らの名義に変更するよう指示する権利を有する。
(オ) 「vest」されていないアワードは,関連する配当とともに,従業員の雇用終了日に補償なしに自動的に取り消される。
次の状況で離職する従業員,すなわち,職務中の死亡,傷害又は障害,退職又は情状酌量に値する(compassionate)理由により離職する従業員に対しては,例外が設けられる。
職務中の死亡の場合,受託者は諮問委員会の勧告に基づき死亡した従業員の代理人に対してその裁量による現金支払を行ってアワードの解消を補償することがある。
傷害又は障害による雇用の終了,退職(通常の退職日又は雇用主が同意した別の退職日)又は情状酌量に値する理由による離職の場合,受託者は,諮問委員会の勧告により,アワードの解消を補償するために,離職した従業員に対してその裁量による現金支払を行うか,又は諮問委員会は受託者に対し従業員が「vest」されていない証書又は株式を保持し続けることができるように勧告を行うことがある。
権利が保持されている場合,その従業員は通常のタイムスケジュールに従って利益を実現することができる。
アワード・プランに加入することにより,従業員は,いかなる理由で加入雇用主との雇用契約が終了した場合でもアワード・プランの下での権利又は将来期待され得る権利の喪失に対して補償又は損害賠償を求める権利を有しないことを承諾する。
(カ) 従業員のために確保されている証書は,従業員信託に保管されている。
その受託者は,チャネル諸島のジャージを拠点とする「P18」(以下「P18社」という。)である。
受託者の役割は有資格従業員の利益を代表することで,具体的には,次の行為,すなわち,従業員信託に割り当てられた証書を受け取ること,信託証書及び規則に従って証書のアワードを有資格従業員に付与すること及びすべてのアワードの記録を保管すること,を行う。
信託証書及び規則は英国の法律により管理される。
受託者は,P17・グループから独立してこれらの責務を実行し,アワード・プランの参加者の利益において意思決定を行う。
(キ) 証書又は株式に関するいかなる配当も,「vest」の前に従業員に支払われることはなく,受託者により保持される。
アワードが「vest」された時に,累積された配当がその時点で参加者に支払われる。
「vest」した証書又は株式に関する支払可能な配当は,直接(当該証書又は株式の法的所有権が受託者から移転された場合)又は受託者を通して(法的所有権が受託者のもとに残っている場合)参加者に支払われる。
(ク) 証書を保有する参加者は,P4財団において議決権を持たない。
「vest」前に受託者により保有されている株式については,すべての議決権は受託者により行使される。
受託者は参加者の最大の利益に従って議決権を行使する。
「vest」後に受託者により保有されている株式については,参加者は,「vest」された株式に関してどのように議決権を行使するのかを受託者に指示することができる。
受託者は可能であればP5社が株主に送付する通知の写し及びその他の書類を従業員株主に配布する。
ひとたび株式の法的所有権が受託者から従業員に移転されると,その従業員は直接議決権を有するようになる。
(ケ) それぞれのアワードは授与される参加者個人に対して行われるもので,譲渡することはできない。
もし参加者が証書を他人に売却し又は担保に供しようとした場合,受託者はアワードを取り消す。
受託者が(法の運用,破産又は参加者が利益を剥奪されることを余儀なくされるような作為若しくは不作為により)参加者のアワードを剥奪することを勧告された場合,受託者はアワードを取り消す。
受託者がアワードが「vest」すること又は参加者がアワードを引き続き保有することが地域の法律に違反したり又は利益より不利益の大きい規制,税若しくはその他の債務を生じさせたりすると勧告された場合,受託者はアワードを取り消す。
このような状況においては,受託者は,可能であれば代替案を示し,参加者に取消しに対する補償を行う。
(コ) 受託者は,従業員信託の実施と管理にともに取り組むために設立されたP19諮問委員会により助言される。
諮問委員会の役割は,加入する雇用主企業の決定及びアワードに関する受託者への勧告である。
エ P1作成の「A Guide to Discretionary Awards」(甲5,乙4)には,任意報奨(任意アワード)について大要次のとおり記述されている。
(ア) アワード・プランを開始するためにP5社の最大株主であるP4財団の証書(certificate)は従業員信託に移管された。
後日適当な時期にこれらの証書はP5社の株式に転換されることになる。
株式への転換はP4財団の解散時に行われる。
任意アワードの場合,信託はP5社の株式のために「P20Funds」により支払われた価格と等しい各証書又は株式の最終売却収益のうち最初の77.778米ドルに対する権利を保有する。
(イ) 参加者は,P17・グループの資格を有する従業員の中から任意の基準で選ばれる。任意アワードの参加者の総数は厳しく制限される。
選抜の資格を有する者は,資格基準日において加入雇用主のためにフルタイム又はパートタイムで働く正規の従業員でなければならない。
特定の参加者を選抜するための基準日はいつでも可能であるが,次の4者,すなわち,1995年(平成7年)11月30日,1996年(平成8年)11月30日,1997年(平成9年)11月30日及び1998年(平成10年)11月30日が主要な資格基準日である。
任意アワードは無償で付与され,任意アワードに含まれる証書数は完全に任意である。
信託はP5社の株式のために「P20Funds」により支払われた価格に相当する各証書又は株式の最終売却収益のうち最初の77.778米ドルに対する権利を保有する。
(ウ) 従業員は,証書又は株式が「vest」し,かつ,それらを売却することができる市場が存在するとき,(ひとたび価格が1証書又は1株当たり77.778米ドルを超過すれば),それらの一部又はすべてを売却して金銭的利益を実現することができる。
証書又は株式は,諮問委員会が決定した日に「vest」されるが,当該日は,次の事由,すなわち,該当する資格基準日から3年が経過すること,証書が株式に転換されているか又は譲渡可能となること,任意アワード通知又は受託者から参加者への送付状に規定されている条件,たとえば,特定の国にかかわる条件が満たされること,のすべてが生じた時点よりも遅れてはならない。
P4財団の解散後,P5社の株式が証券取引所に上場され,「vest」した株式を売却するための市場が生み出される。
(エ) 参加者は,次に説明するとおり,一定の権利を信託が保有することを条件として,「vest」により証書又は株式の受益所有権を得る。
証書又は株式の法的所有権は受託者のもとに残るが,受託者は,通常,従業員の指示に従って行動する。
たとえば,依頼があれば従業員に代わって証書又は株式の売却を行う。
信託は,P5社の株式のために「P20Funds」により支払われた価格に相当する各証書又は株式の最終売却収益のうち最初の77.778米ドルに対する権利を保有する。
また,信託は,次の事由,すなわち,該当する資格基準日以降6年が経過したこと,証書が株式に転換されているか又は譲渡可能になって以降3年が経過していること及び任意アワード通知又は受託者から参加者への送付状に規定されているいかなる条件も満たされて以降3年が経過したこと,のすべてが生じたとき,(売却又は再所有によって)その保有する証書又は株式に係る上記の利益を実現する権利を保有する。
たとえば,参加者が,上記事由のすべてが生じた場合において依然として任意アワード100株を保有しているとき,信託は,39株を売却してその収益を保有するか,又は,その代わりに39株を再所有する。
以後,信託は,残り61株の売却収益にあずかる権利をもはや有せず,通常,それら61株の法的所有権を参加者に移転する。
(オ) 「vest」されていない任意アワードは,関連する配当とともに,従業員の雇用終了日に補償なしに自動的に取り消される。
「vest」した任意アワードは雇用の終了により取り消されることはないが,従業員は証書又は株式の雇用終了日における市場価格を超えたその後の価格上昇についての権利を有しない。
このような価格上昇分は,各証書又は株式の最終売却収益のうち最初の77.778米ドルを保有する権利に加えて,信託に帰属する。
信託は,雇用終了日と売却可能な市場が最初に現れる日のいずれか遅い方の日後3年以内に証書又は株式を売却するよう手配する。
次の状況で離職する従業員,すなわち,職務中の死亡,傷害又は障害,退職又は情状酌量に値する(compassionate)理由により離職する従業員に対しては,例外が設けられる。
職務中の死亡の場合,受託者は諮問委員会の勧告に基づき死亡した従業員の代理人に対してその裁量による現金支払を行って任意アワードの解消を補償することがある。
傷害又は障害による雇用の終了,退職(通常の退職日又は雇用主が同意した別の退職日)又は情状酌量に値する理由による離職の場合,受託者は,諮問委員会の勧告により,任意アワードの解消を補償するために,離職した従業員に対してその裁量による現金支払を行うか,又は諮問委員会は受託者に対し従業員が任意アワードを保持し続けることができるように勧告を行うことがある。
権利が保持されている場合,その従業員は通常のタイムスケジュールに従って利益を実現することができる。
アワード・プランに加入することにより,従業員は,いかなる理由で加入雇用主との雇用契約が終了した場合でもアワード・プランの下での権利又は将来期待され得る権利の喪失に対して補償又は損害賠償を求める権利を有しないことを承諾する。
(カ) 従業員のために確保されている証書は,従業員信託に保管されている。
その受託者は,チャネル諸島のジャージを拠点とする「P18」(以下「P18社」という。)である。
受託者の役割は有資格従業員の利益を代表することで,具体的には,次の行為,すなわち,従業員信託に割り当てられた証書を受け取ること,信託証書及び規則に従って証書のアワードを有資格従業員に付与すること及びすべてのアワードの記録を保管すること,を行う。
信託証書及び規則は英国の法律により管理される。
受託者は,P17・グループから独立してこれらの責務を実行し,アワード・プランの参加者の利益において意思決定を行う。
(キ) 証書又は株式に関するいかなる配当も,「vest」の前に従業員に支払われることはなく,受託者により保持される。
任意アワードが「vest」された時に,累積された配当がその時点で参加者に支払われる。
「vest」したがまだ売却されていない証書又は株式に関する支払可能な配当は,直接(当該証書又は株式の法的所有権が受託者から移転された場合)又は受託者を通して(法的所有権が受託者のもとに残っている場合)参加者に支払われる。
(ク) 証書を保有する参加者は,P4財団において議決権を持たない。
「vest」前に受託者により保有されている株式については,すべての議決権は受託者により行使される。
受託者は参加者の最大の利益に従って議決権を行使する。
「vest」後に受託者により保有されている株式については,参加者は,従業員であり続けることを前提に,「vest」された株式に関してどのように議決権を行使するのかを受託者に指示することができる。
受託者は可能であればP5社が株主に送付する通知の写し及びその他の書類を従業員株主に配布する。
ひとたび株式の法的所有権が受託者から参加者に移転されると,当該参加者は直接議決権を有するようになる。
(ケ) それぞれの任意アワードは授与される参加者個人に対して行われるもので,譲渡することはできない。
もし参加者が証書を他人に売却し又は担保に供しようとした場合,受託者は任意アワードを取り消す。
受託者が(法の運用,破産又は参加者が利益を剥奪されることを余儀なくされるような作為若しくは不作為により)参加者の任意アワードを剥奪することを勧告された場合,受託者は任意アワードを取り消す。
受託者が任意アワードが「vest」すること又は参加者が任意アワードを引き続き保有することが地域の法律に違反したり又は利益より不利益の大きい規制,税若しくはその他の債務を生じさせたりすると勧告された場合,受託者は任意アワードを取り消す。
このような状況においては,受託者は,可能であれば代替案を示し,参加者に取消しに対する補償を行う。
(コ) 受託者は,従業員信託の実施と管理にともに取り組むために設立されたP19諮問委員会により助言される。
諮問委員会の役割は,加入する雇用主企業の決定及びアワードに関する受託者への勧告である。
(3) 原告に対する本件各アワードの付与及び原告による本件各アワードの売却ア 原告は,別表1のとおり,本件アワード・プランに基づき通常報奨又は任意報奨として本件アワードを付与された(以下,別表1の項号1ないし5の各アワードを「本件アワード1」などといい,原告に付与されたこれらの本件アワードを「本件各アワード」という。)。
なお,平成13年6月29日以前の「vest」されていない本件アワードに係るP5社の株式はその後2.2対1の割合でP7社の株式と交換された。
イ 原告は,平成12年1月17日,本件アワード1に係るP5社の株式のうち420株を受託者に指示して売却し,同年2月15日ころ,受託者から上記本件アワード1に係る株式のうちの420株分につき470万4350円の支払を受けた。
原告は,平成13年1月ころ,本件アワード1に係るP5社の株式のうち5240株を受託者に指示して売却し,同年2月9日,受託者から1582万0368円の支払を受けた。
原告は,平成13年7月3日,本件アワード3に係る株式を受託者に指示して売却し,平成13年7月19日,1712万6190円の支払を受けた。
ウ 原告は,平成12年1月17日,受託者に対し本件アワード2に係るP5社の株式についてトランスファー(transfer)を指示して原告の証券会社の口座への転送手続を行った後,同年12月20日,上記株式を786万5467円で売却した(甲12,弁論の全趣旨)。
エ 原告は,本件アワード4及び5について,平成13年11月28日ころ,原告の保有するP7社の株式をP21株式会社の原告の口座にトランスファーするよう指示する旨のP7社通常株式のトランスファー申請書(甲10)を受託者に送付し,平成14年1月9日,P7社の株式611株が同口座に振り込まれた(甲9,10,12,弁論の全趣旨)。
(4) 確定申告及び更正処分等
ア 原告は,平成13年2月19日,上記(3)イの本件アワード1に係る株式のうち420株の売却により受領した金額を給与所得に係る収入金額(470万4350円)として別表2のとおり所得税の確定申告をした。
原告は,平成14年3月11日,上記(3)イの本件アワード1に係る株式のうち5240株の売却により受領した金額及び本件アワード3に係る株式の売却により受領した金額を一時所得に係る収入金額(3244万6558円)として別表2のとおり所得税の確定申告をした。
イ 豊能税務署長は,平成15年10月31日付けで,原告の平成12年分の所得税について,本件アワード1及び2に係る経済的利益は給与所得に該当し,かつ,その収入金額とすべき時期は各「vest」時であるとして,別表2のとおり更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分をした。
豊能税務署長は,平成15年10月31日付けで,原告の平成13年分の所得税について,本件アワード3ないし5に係る経済的利益は給与所得に該当し,かつ,その収入金額とすべき時期は各「vest」時であるとして,別表2のとおり更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分をした。
ウ 原告は,平成15年12月22日,豊能税務署長に対し,本件各更正処分及び本件各賦課決定処分に対する異議申立てをしたが,同税務署長は,平成16年3月15日,異議申立てを棄却する旨の決定をした。
エ 原告は,平成16年4月14日,国税不服審判所長に対し,本件各更正処分及び本件各賦課決定処分に対する審査請求をした。
オ 原告は,平成17年9月14日,本件訴えを提起した。
カ 豊能税務署長は,別表2のとおり,平成17年11月2日付けで,原告の平成12年分の所得税について総所得金額を7689万6912円,納付すべき税額を2177万8400円とする再更正処分及び同所得税に係る過少申告加算税を320万5500円とする過少申告加算税の変更決定処分を,原告の平成13年分の所得税について総所得金額を2281万4000円,納付すべき税額を397万2800円とする再更正処分及び同所得税に係る過少申告加算税を10万9000円とする過少申告加算税の変更決定処分をそれぞれした。
これらの再更正処分(以下「本件各再更正処分」という。)及び変更決定処分(以下「本件各変更決定処分」という。)は,任意報奨である本件アワード1及び3について本件アワード・プランに基づき信託に留保される利益が収入すべき金額に当たらないことを理由とするものであった。
キ 国税不服審判所長は,平成18年8月23日付けで原告の上記エの審査請求を棄却する旨の裁決をした。
(5) 本訴において被告が主張する原告の所得税及び過少申告加算税の計算ア 平成12年分の所得税及び過少申告加算税
(ア) 総所得金額 7689万6912円
P14社からの給与収入金額 1399万0500円
本件アワード1及び2に係るP5社からの給与収入金額
6874万3092円
給与所得控除後の総所得金額 7689万6912円
なお,本件アワード1及び2に係るP5社からの給与収入金額は,別表3のとおり,「vest」日である平成12年1月17日における「vest」に係るP5社の株式の株価(1株当たり106.81米ドルに同日における株式会社P22銀行の外国為替対顧客電信買い相場(TTB)による為替レート(1米ドル当たり104.55円)を適用した金額)相当額である。
(イ) 所得控除の金額 373万1540円
原告が平成12年分の所得税の確定申告書に記載した金額と同額である。
(ウ) 課税総所得金額 7316万5000円
(エ) 納付すべき所得税の税額 2177万8400円
上記(ウ)の課税総所得金額に所得税法89条1項(経済社会の変化等に対応して早急に講ずべき所得税及び法人税の負担軽減措置に関する法律4条による。)の規定を適用して算出した金額(2458万1050円)から低率減税額(25万円),源泉徴収税額(103万1400円)及び予定納税額(152万1200円)を控除した金額であり,上記控除に係る金額は原告が平成12年分の所得税の確定申告書に記載した金額と同額である。
(オ) 過少申告加算税 320万5500円
別表4のとおり。
イ 平成13年分の所得税及び過少申告加算税
(ア) 総所得金額 2281万4000円
P23LLCからの給与収入金額 504万0680円
本件アワード3ないし5に係るP7社からの給与収入金額
2076万3531円
給与所得控除後の総所得金額 2281万4000円
なお,本件アワード3ないし5に係るP7社からの給与収入金額は,「vest」日である平成13年7月3日における「vest」に係るP7社の株式の株価(1株当たり48.12米ドルに同日における株式会社P22銀行の外国為替対顧客電信買い相場(TTB)による為替レート(1米ドル当たり122.85円)を適用した金額)相当額である。
(イ) 所得控除の金額 251万2193円
原告が平成13年分の所得税の確定申告書に記載した金額と同額である。
(ウ) 課税総所得金額 2030万1000円
(エ) 納付すべき所得税の税額 397万2800円
上記(ウ)の課税総所得金額に所得税法89条1項(経済社会の変化等に対応して早急に講ずべき所得税及び法人税の負担軽減措置に関する法律4条による。)の規定を適用して算出した金額(502万1370円)から低率減税額(25万円),源泉徴収税額(7300円)及び予定納税額(79万1200円)を控除した金額であり,上記控除に係る金額は原告が平成13年分の所得税の確定申告書に記載した金額と同額である。
(オ) 過少申告加算税 10万9000円
(6) 本件アワードの課税関係についての記述等
ア 通常報奨に係る前記「A Guide to the Award Plan」及び任意報奨に係る前記「A Guide to Discretionary Awards」(以下,両者を併せて「本件各ガイド」という。)には,「参加者は,ほぼ確実に,アワード(任意アワード)の価格に応じて税及び従業員社会保障分担金の負担を負うことになる。」,「「vest」の際に,ほとんどの国の参加者は,その時のアワード(任意アワード)の価格に応じた税及び社会保障を支払わなければならない。」,「多くの国で,参加者が株式を売却して得たキャピタル・ゲインは課税の対象となる。
その税は,売却収益からそれ以前の段階で課税された価格を除いた価格に基づいて算出されることが多い。」,「税と社会保障の状況は国ごとに異なる。
上記の情報は,多くの国で起こり得る状況を想定して示したものにすぎない。」などと記述されている。
イ P14社作成の平成12年1月1日発行に係る「Award Plan及びShare Option Planに関する所得についての確定申告書作成のガイドライン」(乙5。
以下「本件ガイドライン」という。)には,「AwardPlanによる権利を付与(Grant)された従業員等は,当該権利が確定(Vest)したときに,その権利確定(Vest)時における株式の時価総額を利益として享受することになります(以下,「確定時の利益」といいます)。
さらに,確定(Vest)時の時価より時価が上回ったときに売却(Sale)することにより,その差額もまた利益として受け取ることができます(以下,「売却時の利益」といいます)。
本邦の所得税法上,「確定時の利益」は給与所得として課税され,「売却時の利益」は株式の譲渡所得として課税されることになります。」,「Award Planによる権利が確定(Vest)した場合には,これを放棄(拒否)しない限り,経済的利益としての給与所得が発生します。
この給与所得の支払元は,本プランの場合,海外の親会社と考えられますので,源泉徴収がされていない給与所得となり確定申告が必要です。
売却(Sale)する,しないにかかわらず,納税義務が生じますので十分注意してください。」などと記述されている。
4 争点及び争点に関する当事者の主張
本件の争点は,1 本件アワードに係る経済的利益の課税時期,2 本件アワードに係る経済的利益の所得区分,3 国税通則法65条4項にいう正当な理由の有無,であり,争点に関する当事者の主張は,次のとおりである。
(1) 本件アワードに係る経済的利益の課税時期(争点1)
(被告の主張)
ア 本件アワード・プランに基づき本件アワードを付与された従業員は,本件アワードの「vest」,すなわち,権利確定によって,「vest」に係る株式の受益所有権を取得し,当該受益所有権の性質からすれば,当該受益所有権の取得をもって収入の原因である権利が確定的に発生したものというべきであるから,「vest」時における「vest」に係る株式の時価相当額の経済的利益が「vest」時の属する年分の収入すべき金額として当該年分の所得税の課税対象になる。
イ 本件アワード・プランにおいては,従業員等に株式取得益を享受させる方法として,P5社を委託者,P18社を受託者,従業員等を受益者とする従業員信託の方法が採用されており,P5社を委託者,P18社を受託者,従業員等を受益者として,本件アワードに係る証書(certificate)を委託者から受託者に移転し,受託者をもって上記証書が転換されたP5社の株式を管理又は処分させ,これから得られる利益を従業員等に享受させることとしている。
従業員等は,資格基準日から3年在籍していること,上記証書がP5社の株式に転換されていること等の一定の要件を満たすと,諮問委員会が決定した日に本件アワードの権利が確定(vest)し,この権利確定(vest)により,受益所有者としての地位が確定した従業員等は,権利確定した株式の受益所有権を無償で取得し,その具体的効果として,当該株式をいつでも自由に売却することができ,また,配当を受け取り,議決権を行使することにより,当該株式による経済的利益を享受することができる。
すなわち,権利確定によって,従業員等は,その時点で当該株式に係る使用,収益権能のみならず,処分によって金銭的利益を得る権能をも得るのであり,これらは正に本件アワードに係る株式取得益の実現に他ならない。
他方で,本件アワードの権利確定(vest)後も当該株式の法的所有権は受託者に残るとされているとしても,これは,本件アワード・プランの運営に信託を介していることに起因するものにすぎず,信託における受託者の役割は,信託財産を一定の目的のために管理又は処分し,そこから得られる利益を受益者に受けさせることに限定されており,本件各ガイドにおいても,受託者が具体的に行う行為としては,従業員信託に割り当てられた証書を受け取ること,信託証書及び規則に従って証書を有資格従業員に授与すること及びすべてのアワードの記録を保管することが規定されているにすぎないから,受託者に当該株式の取得益までが留保されていると解することはできず,したがって,権利確定(vest)によって従業員等が株式取得益を得ると解することの妨げとはならない。
名義変更の申請が従業員等の任意とされていることも,当該申請により当該株式の法的所有権を移転するか否かにかかわらず従業員等が本件アワードの権利確定により経済的利益を享受することに何ら変わりがないことの現れである。
なお,任意報奨については,本件アワードに係る株式の売却価格のうち1株当たり一定の金額に係る権利を信託留保分として信託が保有し,当該株式が上場されている場合であっても当該株式の法的所有権を自らの名義に変更することはできないという点において通常報奨と異なるものとされているが,任意報奨も,本件アワードの権利確定(vest)により従業員等が当該株式の受益所有権を取得し,当該株式をいつでも自由に売却することができ,また,配当を受け取ったり議決権を行使したりすることができる点では通常報奨の場合と変わりがなく,法的所有権を従業員等の名義に変更することを認めない理由は,法的所有権を従業員等の名義に変更することを認めると,従業員等が名義変更後に当該株式を売却した場合,信託留保分に係る手続が煩雑となり,また,信託留保分の確実な控除が困難なものとなりかねないためであると解されるから,通常報奨と同様に,権利確定(vest)によって従業員等が株式取得益を得ると解すべきである。
したがって,本件アワードに係る経済的利益については,その権利確定(vest)時がその収入の計上時期である。
ウ 本件アワード3ないし5についても,原告がP14社を退職した際にこれらが失効したとは認められず,原告は,諮問委員会の勧告により,これらの本件アワードを失効することなく保持し続けていたのであるから,平成13年7月3日の権利確定(vest)時にこれらの本件アワードに係る株式取得益を得たものである。
この点,原告は,本件アワードは,退職により失効し,その後,新たに会社の自由裁量により本件アワードを支給するか否かを決定するものであり,実質的には権利は連続して保持されているものではなく,原告の退職によって新たに本件アワード3ないし5を取得することを決定されたと解すべきである旨主張する。
しかしながら,本件各ガイドは,例外的に諮問委員会が認めた特別な事情による退職の場合には,文字通り,本件アワードを失効することなく保持し続けることを認める規定をしている。
のみならず,原告は,退職に先立って,当時原告に付与されていた本件アワード3ないし5のいずれもその権利を保持し続けるとの説明を受け,失効することなく付与される旨の文書を交付された上,原告の主張によっても,本件アワード3(任意報奨)については,失効しなかったというのであり,原告が平成13年6月14日の段階で本件アワード4及び5(通常報奨)について名義書換を請求しているところからして,同日以前の段階でP7社(同月29日段階で権利未確定のアワードに係るP5社の株式はP7社の株式と一定割合で交換されている。)の株式の名義書換請求書が原告に送付されるとともに本件アワード4及び5についても「vest」時期についての告知を受けていたと考えられることなどからすれば,本件アワード4及び5についても原告の退職による失効扱いがされていたとは考え難い。
仮に本件アワード4及び5が何らかの手違いで記録から削除されるなど失効した場合と同様に取り扱われていたとしても,前提事実(3)エのとおりその後名義書換請求を行うことができた分については,従前付与されていた本件アワードとは別の本件アワードを新たに取得したものではなく,従前付与されていたものについて名義書換請求等の手続をすることができるようになったにすぎない。
この点,原告は,名義書換がされて証券会社の原告の口座にP7社の株式が送られたのが平成14年1月9日であることをもって,本件アワード4及び5については平成14年分の所得として取り扱われるべきである旨主張するが,遅くとも平成13年11月28日の時点では名義書換請求や売却指示をすることができたことは明らかであるから,仮に一時的にその手続ができない状態にあったとしても,本件アワード4及び5に係る株式取得益は平成13年に得ているというほかなく,その課税時期には影響を与えない。
エ 原告は,従業員等は,「vest」によって「vest」に係る株式の取得あるいは当該株式の売却による現金の取得が可能な一定の地位につくのであって,この状態はストックオプションでいうところの権利者においていつでもそれを行使してもよい状態と同視することができるところ,ストックオプションが「vest」時に課税されない以上,本件アワードについても別異に扱われる理由はなく,「vest」時に課税されるものではないなどと主張する。
確かに,ストックオプションも本件アワード・プランもインセンティヴ報酬である点において違いはない。
しかしながら,ストックオプションは,あらかじめ定められた価額(権利行使価格)で自社株式を購入する権利であり,株式の売買の一方の予約又はこれに類する法律関係から発生した予約完結権であって,株式譲渡契約を成立させることができる権利にすぎないから,当該権利が確定しただけでは,処分権はもとより議決権を行使することができるものではなく,配当を受領することもできない。
すなわち,ストックオプションが確定しただけの時点では,ストックオプションを付与された従業員等においてその後株式購入の意思表示を行ってその購入代金を支払わない限り,当該株式を取得するか否かは未確定であるから,何ら経済的利益は実現していない。
当該従業員等において株式購入の意思表示,すなわち,権利行使をすることにより,初めて当該従業員等は株式を取得し,当該権利行使時における株式の時価と権利行使価格との差額に相当する経済的利益が確定的に実現する。
他方,本件アワードは,本件アワードに係る権利が確定すると,当該権利の行使(従業員等の意思表示)といった特段の手続を経ることなく本件アワードに係る株式の受益所有権を取得し,この権利確定時(vest時)における当該株式の時価に相当する経済的利益として株式取得益を確定的に実現する。
受託者に対する当該株式の売却申請は,本件アワードの権利の行使ではなく,本件アワードの権利確定によって取得した株式の単なる売却手続にすぎない。
すなわち,ストックオプションに係る課税対象は権利行使益であり,その実現には従業員等による権利行使という行為が介在するのに対し,本件アワードに係る課税対象は株式取得益であり,その実現は権利確定(vest)により当然にされるものである。
このように,インセンティヴ報酬としての目的を実現するための具体的制度設計として,ストックオプションは,権利行使時における権利行使価格と株式の時価との差額に相当する経済的利益,すなわち,権利行使益を与え,本件アワード・プランは,権利確定時における株式の時価に相当する経済的利益(株式取得益)を与えることとしているのであって,ストックオプションと本件アワードでは,その経済的利益の実現に係る過程が異なるものであり,本件アワードにおける権利確定(vest)はストックオプションにおける権利行使に相当するものである。
しかるに,原告の上記主張は,本件アワードにおける権利確定(vest)後の状態をストックオプションにおける権利行使前の状態と同視するものであるから,独自の見解を前提とするものというほかなく,採用することができない(なお,原告は,「vest」を権利行使可能と訳しているが,「vest」は「(権利を)与える,(権利の発生を)確実なものとする,帰属する」ことを意味する語句であって,原告の主張するような意味を含んでいない。)。
また,原告は,「vest」後においても,受託者に対して本件株式の法的所有権の移転ないし売却の指示をするまでは本件アワードの受領を辞退することができるのであるから,本件アワードに係る経済的利益が法的な意味で確定するのは,本件アワードに係る株式の法的所有権の移転ないし売却を指示した時点であり,それ以前においては未確定である,税制上の不利益を回避するために本件アワードの辞退の権利が認められている,等と主張する。
しかしながら,権利確定(vest)後の本件アワードの辞退は,権利確定によっていったん確定的に取得した株式の放棄ないし返還の意思表示と評価されるべきものにすぎないから,権利確定後でも本件アワードを辞退することができることは,権利確定時において本件アワードに係る権利が未確定であることの根拠にはなり得ない。
また,原告の主張するとおり本件アワードに係る株式の売却を指示するまで課税されないと解すれば,税制上の不利益を回避するために「vest」後売却指示前に本件アワードを放棄することが必要となるような事態はそもそも起こり得ないはずである。
したがって,従業員等が権利確定後本件アワードを放棄することができることは,本件アワードの権利確定により従業員等が株式取得益を得ると解することの妨げとはならない。
また,原告は,本件各更正処分が憲法29条1項に違反するかのような主張をするが,課税される所得が必ずしもその後に当該経済的利益を換価して得た現金収入額と等しくなるものでないことは所得税法の予定するところであり,原告の主張は立法論にすぎない。
(原告の主張)
ア 本件アワードを付与された権利者は,それが「vest」,すなわち,権利行使可能となった時点においては,無償で一定の権利を行使する地位が与えられるにすぎず,「vest」後に現実に受託者に対して権利行使の申請をし,受託者においてその保管する株式を売却してその利益を権利者に償還するか又は株式を権利者に付与するなどの手続を行うことにより,当該権利者において当該権利行使益を得た時に,当該権利行使益を所得税法36条1項にいう「収入すべき金額」としてその年分の所得税の課税対象とすべきである。
イ 本件アワード・プランにおいては,「vest」後においても,株式の法的所有権は受託者のもとに残るのであり,従業員である参加者が「vest」された株式の法的所有権を自らに名義変更するように受託者に指示して初めて所有権移転の効果が生じるものとされている。
また,本件アワード・プランにおいては,「vest」後においても,従業員である参加者が受託者に対し株式の売却を指示しない限り受託者が勝手に株式を売却することはなく,従業員が現実に株式売却による利益を実現するのは,上記の売却指示(権利行使)があった時である。
さらに,本件アワード・プランにおいては,従業員である参加者は,受託者に対する株式の法的所有権の移転の請求又は売却の指示を行うまでは,いつでも本件アワードの受領を辞退(拒絶)することができる。
このような辞退の権利は,「vest」前だけではなく「vest」後にも存続するのであり,このことは,本件ガイドラインにおいて「Award Planによる権利がvestした場合には,これを拒否(放棄)しない限り,経済的利益としての給与所得が発生します」旨,「vest」後の本件アワードの放棄(拒否)という事態を想定した記載がされていることからも明らかである。
本件アワードが無償で付与されるものであるとしても,税制上の不利益その他の理由から,従業員が本件アワードを辞退することがむしろ利益になる場合があることは,本件アワード制度自体が想定しているところであり,このような観点から,辞退の権利が認められているのである。
したがって,本件アワードに基づく経済的利益(権利)が法的な意味で確定するのは,従業員が本件アワードの権利を行使することを受託者に対して意思表示した時点,すなわち,株式の法的所有権の移転ないし売却の指示をした時点というべきであり,それ以前においては,従業員の権利は未確定というべきである。
ウ 会社の取締役や従業員等に対して将来一定の価格(権利行使価格)で一定の期間内に自社株を購入する権利を付与するストックオプションにおいては,その付与の時に将来株価が決められた権利行使価格を超えて上昇した場合に権利を行使して当該株式の時価と権利行使価格との差額相当の利益を享受することができるという権利を取得するものの,当該権利は単なる将来の利益期待権にすぎず,このような期待権も経済的に無価値ということはできないが,そのような期待権が付与されただけでは権利として確定したということはできず,形成権である予約完結権行使の意思表示がされて初めて権利者は当該株式の所有権を確定的に取得し,権利として確定することから,当該権利行使時に上記差額に対して所得税が課税される。
他方,本件アワード・プランにおける「vest」は,従業員である加入者において何らの出捐を要さずにその時点からP5社の株式の取得又は当該株式の売却による現金の取得が可能な一定の地位に就くことを意味し,それ以上に権利が確定的に帰属するものではなく,従業員から権利行使の意思表示がされて初めて当該株式の法的所有権の移転又は売却利益の実現という法的効果が生じるのであり,それ以前は本件アワードの辞退という選択肢もあるのであるから,本件アワード・プランにより付与される権利は,予約完結権としての一種の形成権(期待権)にすぎず,当該予約完結権の行使をもって初めて権利が確定すると解することができる。
すなわち,本件アワード・プランにおける「vest」したことによる上記地位(状態)は,ストックオプションでいうところの会社から新株予約(購入)権を付与され(期限付きのものであればその期限が到来したことにより)権利者においていつでもそれを行使してもよい状態と同視することができ,本件アワードとストックオプションとの違いは,その付与が無償であるか有償であるかの違いにすぎない。
しかるところ,ストックオプションが「vest」時に課税されず権利行使時に課税される以上,本件アワードについても別異に扱われる理由はないから,本件アワードについてのみ権利行使時ではなく「vest」時に課税するという取扱いは,ストックオプションの場合との取扱いの均衡を著しく欠き,違法である。
エ 被告は,本件アワードが「vest」されれば,従業員等は,特段の意思表示がなくても,自動的に株式を取得し,いつでも当該株式を売却したり,議決権を行使したり,配当を受け取ることができ,「vest」後の本件アワードの辞退は,いったん確定的に取得した権利の放棄であるなどと主張する。
しかしながら,「vest」により従業員等が本件アワードに係る株式の受益所有権を取得するとされているのは,従業員等から受託者に対して受益の意思表示がされれば受託者はこれに応じなければならないという地位が生じることを表したものにすぎない。
また,形式的に本件アワードが「vest」されただけで,従業員等に自動的に株主総会の招集通知が送られたり,配当金が振り込まれるというような仕組みにはなっておらず,このような株式取得に伴う利益を現実に享受するためには,従業員等が受託者に対しこのような権利を行使したいとの意思表示をし,招集通知の送付先の指定や配当金の振込口座の指定等をする必要があり,このような意思表示をしなければ,経済的な利益は現実化しないのであって,これは任意報奨についても同じである。
さらに,「vest」後も株式の法的所有権が受託者に残るとされているのは,従業員等が本件アワードを受ける権利を辞退することがあり得るからであり,本件アワードの辞退は,被告が主張するようないったん確定的に取得した権利の放棄ではなく,未確定な状態にある本件アワードに関する権利を享受しないことを確定させる意思表示であって,権利を享受するか辞退するかは従業員等の意思にゆだねられており,本件ガイドラインの前記イの記載は,制度設計者自身が,いずれかの意思表示がされるまでは,権利が未確定な状態に置かれていると認識していることを示しているものである。
被告の主張するとおり「vest」によって従業員等が自動的に株式を取得するのであれば,「vest」の時点で従業員等の意思表示とは無関係に株式の名義変更が行われるような仕組みが採用されるはずである。
以上のとおり,本件アワード・プランにおいては,「vest」後,本件アワードの権利を享受するか享受しないかの選択を従業員等の意思表示にゆだね,当該意思表示によって初めて権利を確定させる仕組みが採用されているのであって,当該意思表示がされるまでは権利は未確定であって,従業員等が本件アワードに係る経済的利益を現実に得ることはない。
オ 本件アワード3ないし5は,「vest」日(権利行使可能日)が原告がP14社を退職した日より後に指定されたが,本件アワード・プランにおいては,本件アワードが「vest」される以前にその権利者が退職したときは原則として付与された本件アワードは失効することとされているところ,原告の退職の理由がP14社のリストラ策に協力したことによるものであったことから,退職の際,同社から,原告に対し,これらの本件アワードが失効することなく付与される旨の文書が送られてきた。
そこで,原告は,「vest」日として指定された平成13年7月3日,本件アワード3ないし5について権利行使(売却)したところ,本件アワード3は権利行使ができたものの,本件アワード4及び5については,その1,2週間後に,権利が失効しており売却することができない旨の連絡を受託者から受けた。
そこで,原告は,P14社の担当者に対し,本件アワード4及び5について復活の申入れを行い,グループの中でアジア地域を代表する会社であるP24社の担当者との間で復活交渉を行った結果,同社から,受託者に復活指示をするから再度権利行使の申請をするようにとの連絡が入り,原告は,同年11月28日,上記同年7月3日の権利行使のために使用した用紙に受託者の担当者名等を書き込んだ上これを送付し,前提事実(3)エのとおり,平成14年1月9日,受託者からP7社の株式611株がP21株式会社の原告の口座に転送されるに至った。
本件アワード・プランの下においては,権利行使可能(vest)日前に従業員等が退職した場合には退職により本件アワードの権利は失効し,その後新たに会社の自由裁量により現金を支給するか本件アワードを支給する(復活させる)かを決定することができるものと定められているのであり,退職の前後で本件アワードの権利が連続して保持されているものではない。
原告は,退職後,P5社が原告に本件アワードを復活させることを決定し,P7社の株式611株を原告に交付するまでは,何ら権利を取得していない状態にあったのであり,原告が本件アワード4及び5の利益を享受したのは,これらの本件アワードが交付された平成14年1月9日であるから,本件アワード4及び5の権利行使益については,平成14年分の所得税に係る収入として計上すべきである。
なお,上記のとおり,原告は,平成13年11月28日付けで受託者に対し権利行使のための申請書類を送付しているが,当該時点では,原告は,P24社の担当者から再取得の手続をとるので事前に権利行使のための申請書類を再度送付するよう指示を受けたにすぎず,本件アワード4及び5は失効したままの状態であって,原告が本件アワードを再取得することができるか否かは未確定であり,いつ再取得の手続がされたのかの連絡はなかったのであるから,これらの本件アワードに係る上記株式が転送(交付)された平成14年1月9日をもって利益実現の日とすべきである。
(2) 本件各アワードに係る経済的利益の所得区分(争点2)
(被告の主張)
ア 本件各アワードに係る株式取得益は,本件アワード3ないし5に係るものをも含め,給与所得に該当する。
イ 給与所得の本質は,非独立的,従属的な役務の提供の対価という点にあり,当該対価は,雇用契約等に基づく反対給付(取締役委任契約に基づく報酬,雇用契約に基づく給料等)に限定されるものではなく,従業員等の地位に基づいて給付される限り,役務の対価としての性質を有し,給与所得に該当する。
そして,親会社が子会社の従業員等に対して当該従業員等の当該子会社への役務提供を評価して(今後の精勤への期待を含め)その対価と評価し得る金銭その他の経済的利益を付与した場合には,当該経済的利益は給与所得に該当するというべきである。
本件アワードを付与するのは,原告と雇用関係にあったP14社ではなくその親会社であるP5社であるが,P5社は,P14社の親会社として,資本関係からみても実質的な意思決定からみてもP14社を支配しており,同社従業員の役務について対価を支払ってもおかしくない立場にあること,本件アワード付与の条件や本件アワード導入の目的に照らすと,本件アワードによる株式取得益は勤務と不可分に結びついた対価ということができること,等からして,本件各アワードによる株式取得益は給与所得に該当する。
すなわち,P5社は,P14社の発行済み株式の100%を間接的に支配しており,同社を経営支配し,同社の従業員等の労働力を利用して,その勤労の成果を得ているということができ,当該勤労の成果により同社の業績が向上しその企業価値が増加すれば,P5社の実質的な資産価値が増加し,同社の株式の時価も上昇するという関係にある。
このことは,P14社の業務執行に係る意思決定は,実質的にはロンドンにある本社機構が行い,取締役会は議事録に署名,捺印する程度の形式的なものであったことからも裏付けられる。
このような関係等からすれば,P5社が原告を始めとするP14社の従業員等の同社に対する役務の提供に対し何らかの対価を支払うということは十分に考えられるし,むしろ自然である。
また,本件アワード・プランは,本件アワードを通じて従業員等の貢献と努力を呼び起こし,組織の更なる成長と成功をもたらすことを目的とするものであり,本件アワードを付与された従業員等の全体の貢献がP17・グループ各社の利益,業績に結びつくことを前提にした親会社株式を利用した長期インセンティヴ報酬制度の一種である。
すなわち,本件アワード・プランは,本件アワードの付与後,本件アワードの権利が確定するまでの一定期間,従業員等がP17・グループ各社において精勤することにより同社の業績が向上し,ひいてはその親会社であるP5社の企業価値が向上してその株価が上昇することによって,本件アワードの権利が確定したときに従業員等が得る株式取得益も増大することが見込まれることから,このようなインセンティヴを従業員等に与えることにより,その精勤意欲の向上を図り,優秀な人材を誘因,確保し,会社業績の向上を期待するものである。
しかるところ,本件アワードは,その対象者をその勤務が付与会社の業績に影響を与える者(従業員等)に限定し,その者に上記インセンティヴを与えることを目的としており,付与会社と全く無関係な第三者は対象としていない。
また,本件アワードの付与は従業員等個人にされるものであり,従業員等は付与されたアワードを譲渡することができず,それ自体を売買する市場もなく,本件アワードの権利確定による株式取得益を享受することができるのは本件アワードを付与された従業員等に限られる。
さらに,本件アワードの権利の確定には,付与後一定期間の勤務が条件となっており,当該期間中に退職等により雇用契約等が消滅した場合には,本件アワードは失効し株式取得益を得ることはできない。
このように,本件アワードは,雇用契約等を前提として付与されるインセンティヴ報酬であり,P14社における原告の勤務と不可分に結びついている。
以上のとおり,P5社は,原告がP14社の従業員ないし役員として同社に対して役務を提供していることに着目し,今後の精勤への期待を含めてこれを評価して原告に本件各アワードを付与したものであり,本件各アワードの権利が確定した際には,株式取得益を原告に給付する趣旨で本件各アワードを付与したということができ,従業員等としての地位にあるからこそ本件各アワードが付与され,かつ,現実に勤務を継続しなければ本件各アワードは権利確定せず,株式取得益を享受することができないことからすれば,本件各アワードに係る株式取得益は,原告が職務を遂行したことに対する対価として,P5社から原告に与えられた給付に当たり,本件各アワードに係る経済的利益は,雇用契約又はこれに類する原因に基づき提供された非独立的な労務の対価として給付されたものとして,所得税法28条1項所定の給与所得に当たるというべきである。
なお,ストックオプションに関する最高裁平成16年(行ヒ)第141号同17年1月25日第三小法廷判決・民集59巻1号64頁(以下「平成17年最高裁判決」という。)の事案との比較においても,P14社の意思決定が形骸化しており,原告自身親会社の指揮監督下において業務を遂行していたことが明らかであること,本件アワードについては被付与者の権利行使がなくても権利確定(vest)によって株式取得益を得ることなどからして,株式取得益が給与所得に当たることはなお一層明らかというべきである。
ウ 原告は,本件各アワードによる経済的利益は権利行使益であるとの前提に立ち,そのような権利取得益が一時所得に該当する旨主張し,それが給与所得に該当しない理由として,原告は,P14社に採用されて,同社の取締役として労務を提供していたにすぎず,原告とP5社との間には雇用契約も委任契約も存在せず,同社の指揮命令を受けて労務を提供し得る立場にはなく,同社に労務を提供したり同社から給与の支払を受けていたものではないなどと主張する。
しかしながら,原告は本件各アワードの権利確定(vest)の時点で株式取得益を得ており,当該株式取得益が本件各アワードによる経済的利益であるから,原告の上記主張はその前提を欠いている。
また,付与者である会社と被付与者である従業員等の間に直接の雇用契約や委任契約がないことは給与所得該当性を否定する根拠にならないところ,P14社は,P5社の100%子会社であることに加え,P14社の意思決定そのものが形骸化しており,人事の任命も外国法人によって行われ,原告のリージョナル・マーケティング・ダイレクターとしての業務の内容も日本法人の枠を超えたグループ全体のためのものであったというのであるから,このような本件の具体的事実関係からも,原告とP5社との間に直接の雇用契約あるいは委任契約がないことは,P5社から付与される本件各アワードによる株式取得益が給与所得であるとの結論を左右するものではない。
エ 原告は,本件アワード3ないし5による経済的利益は,仮に一時所得に当たらないとしても,退職所得に当たる旨主張する。
ある所得が所得税法30条1項にいう「退職手当,一時恩給その他の退職により一時に受ける給与」に当たるというためには,1 それが,退職,すなわち,勤務関係の終了という事実によって初めて給付されること,2 従来の継続的な勤務に対する報償ないしその間の労務の対価の一部の後払の性質を有すること,3 一時金として支払われること,の要件を備えることが必要であり,特に,1は,不可欠で本質的な要件である。
また,ある金員が同項にいう「これらの性質を有する給与」に当たるというためには,それが,形式的には上記各要件のすべてを備えていえなくても,実質的にみてこれらの要件の要求するところに適合し,課税上,退職により一時に受ける給与と同一に取り扱うことを相当とするものであることを要する。
しかるところ,本件アワードは,その権利確定がこれを付与された従業員等の退職後であっても,あくまでも本件アワード・プランに基づいて一定の期限の到来という事実を原因として給付されるもの,すなわち,本件アワード・プランによって初めて給付されるものであり,退職という事実を原因として給付されるものではない(退職という事実によって初めて給付されるということは,退職しなければ給付されないということにほかならないところ,本件アワードによる株式取得益については退職しなくてもその給付を受けられるのであるから,本件アワードによる株式取得益を得たことは退職という事実が原因になっていないことは明らかである。)。
原告についても,本件アワード・プランに従い,退職が決まる前の平成9年11月30日及び平成10年11月30日に本件アワード3ないし5に関する権利が付与され,退職後にこれらの権利が確定した結果,付与当初から原告に得させることが予定されていた株式取得益を得たのであって,これは退職という事実を原因として給付されたものではない。
また,原告の退職が特別な理由による退職に当たるとして本件各ガイドに記載される離職者に対する例外規定が適用されたとしても,結果として原告が得るのは,本件アワード・プランにより給付された株式取得益であることに変わりはない上,早期退職によって退職金を増額するのと同じような機能を持った制度として本件アワードを失効させないこととするという制度が存在したものではなく,原告に係る上記措置は,勤務成績を理由として行われた特別扱いと考えるべきである(なお,原告は,本件アワードは退職により失効し,その後会社の自由裁量により新たに本件アワードを取得することを決定された旨主張するが,当該主張を採用することができないことは,前記(1)(被告の主張)ウのとおりである。)。
したがって,平成13年中に権利確定した本件アワード3ないし5に係る株式取得益は,上記1の要件を満たさず,実質的にみても当該要件の要求するところに適合しているということもできない。
また,本件アワードが確定するには,本件アワードの付与(資格基準日)から原則として3年を経過していなければならないとして,株式取得益を付与から一定期間をおいて取得させるものとされているところ,これは,付与後一定期間の精勤を条件とする趣旨であって,それ自体は長期インセンティヴ制度において通常みられる給付形態と変わるところはないから,過去の勤務に対する報酬という性格,すなわち,給与の後払という性格は認められず,したがって,上記2の要件には当たらず,実質的にも,当該要件の要求するところに適合しているということはできない。
以上のとおり,本件アワード3ないし5は,退職所得に該当するというために必要とされる要件を満たさず,実質的にみても,各要件の要求するところに適合するということはできないから,退職所得に該当しない。
なお,仮に本件アワード4及び5が何らかの手違いで失効した場合と同様に取り扱われていたとしても,前記のとおり,従前付与されていた本件アワードとは別の本件アワードを新たに取得したものではなく,従前付与されていた本件アワードについて名義書換請求等の手続をすることができるようになったにすぎないから,退職を理由として利益を得たものでないことはもとより,これらの本件アワードに係る株式取得益の給与所得としての性質が失われるものでもない。
(原告の主張)
ア 給与所得の要件としては,1 当該役務が雇用関係又はそれに類する関係において,使用者の指揮命令の下に提供されるものであること(雇用・指揮命令),2 役務提供の対価であること(対価性),の2点が挙げられている(最高裁昭和52年(行ツ)第12号同56年4月24日第二小法廷判決・民集35巻3号672頁)。
このうち,2の対価性については,労務の提供があり,その報酬として支払われたものであるという関係が必要であり,単に勤労者としての地位に基づくものあるいは雇用関係等に由来するものというだけでは対価性を有しない。
しかるところ,原告とP5社との間には,雇用契約も委任契約も存在せず,同社の指揮命令を受けて労務を提供し得る立場でもない。
また,原告は,P14社で採用され同社の取締役として労務を提供していたものであり,P5社に労務を提供したり同社から給与の支払を受けていたものではないところ,子会社への労務の提供をもって親会社に対する労務の提供と同視することはできない。
したがって,本件アワードの権利行使益は給与所得に該当しない。
そもそも,本件アワードは,過去の精勤に対する対価というよりは,将来に及ぶ長期的な貢献度を考慮して付与されるものであり,しかも,報酬というよりは報奨金として位置づけられるものであるから,給与所得とは性質を異にするものである。
そして,上記権利行使益は,その他の利子所得,配当所得等の所得区分にも該当せず,それがどの程度になるかは,株価の変動によって大きく左右されることからすれば,当該権利行使益は,反復性,継続性のない偶発的な利得であるといわざるを得ないから,営利を目的とする継続的行為から生じた所得にも該当せず,資産の譲渡の対価に該当しないことも明らかである。
したがって,本件アワードの権利行使益は一時所得に該当するというべきである。
なお,平成17年最高裁判決の事案は,米国の親会社の副社長であり日本の子会社の代表取締役を兼務する者に対してストックオプションが付与されたものであるのに対し,原告は,P14社と雇用関係があり,P5社とは雇用関係がないのであるから,上記最高裁判決の事案とはその事実関係を異にするものである。
イ 原告がP14社を退職した後に付与された本件アワード3ないし5は,本件アワード・プランの下における退職による権利失効の例外措置として会社の自由な裁量により通常の決められた退職金とは別の一時金として支給されたものであるから,反復継続性のない会社の任意の決定にゆだねられたものであり,また,退職後に本件アワードを付与されたとしても,今後の精勤に期待するということはあり得ず,インセンティヴ報酬としての性質を欠くから,本件アワード3ないし5に係る権利行使益は一時所得というべきである。
ウ 仮に本件各アワードの権利行使益が一時所得に当たらないと解するとしても,本件アワード3ないし5に係る権利行使益は,退職所得と解すべきである。
すなわち,前記のとおり,本件アワード・プランの下においては,「vest」されていない本件アワードの権利は権利者の退職により失効し,会社はその自由裁量により現金を支給するか本件アワードを復活させるかを決定するものとされているところ,この場合に支給(復活)される本件アワードには,インセンティブ報酬という側面は一切生じず,会社は,当該従業員等の過去の貢献度等を勘案して支給するか否かを決定しているのであるから,本件アワード3ないし5は,原告が退職するに当たってP14社に勤務したことの対価として付与されたものであり,過去の勤務に係る従属的労務提供の対価の性質を有している。
したがって,これらの本件アワードは,勤務関係の終了によって初めて給付されることが決定されて株式を交付されたものというべきであるから,退職により一時に受ける給与及びこれらの性質を有する給与として,退職所得に該当する。
なお,退職後に本件アワードが支給される(復活させられる)場合,形式的には勤務中に付与された本件アワードをその退職後も継続したということになっているが,上記のとおり,退職後に本件アワードが付与されるか否かは会社の任意の決定にゆだねられており,会社の意思によりその付与が認められるのであるから,実質的にみて,退職によって新たに取得することを決定されたものと解すべきである。
また,退職後に本件アワード・プランに基づいて現金が支給される場合,当該現金は明らかに退職により一時に支給されたものとして退職所得と解されることとの対比からしても,現金ではなく本件アワードが付与される場合も同様に退職により支給されたものであると解すべきである。
エ 一般的にストックアワードにおける課税時期を権利行使可能時(vest時)であるとし,その所得区分を給与所得であるとしても,本件のように,権利行使時における株式の価格が権利行使可能時における価格より著しく下落した場合には,当該株式をすべて売却しても課税された税金相当額にすら満たないという現象が起きることになり,得た利益以上の課税処分をされることになるから,このような場合には,権利行使可能時に課税された所得税の一部を還付する等の立法措置が講じられなければ不合理であるところ,そのような措置は何ら設けられていないから,原告に対する当該課税処分は憲法29条1項に違反するというべきであり,このような税制の不備を補う観点からも,本件に限っては,その課税時期を本件アワードの権利行使時とした上で,その権利行使益を一時所得とするよう,所得税法36条等を合憲的に解釈すべきである。
(3) 国税通則法65条4項にいう正当な理由の有無(争点3)
(原告の主張)
原告は,本件アワード・プランによって取得した株式は,その売却による入金があった時点で課税されると考え,在職中に株式の売却により収入があったものについては給与所得として,退職後に株式の売却により収入があったものについては一時所得として平成12年分及び平成13年分の各所得税の確定申告をした。
上記の課税時期については,入金により初めて納税資金を確保することができることに加えて,「vest」後短期間のうちに大量の株式を売却してしまうのは,本件アワード・プランの目的である長期インセンティヴの趣旨と矛盾するものである上,当時P14社の役員の地位にあった原告についてはインサイダー取引であると疑われるおそれがあると考え,「vest」時の課税はあり得ないと判断したことによる。
また,所得区分については,在職中に同僚から税務署や税理士に問い合わせたところ一時所得でもいいといわれた社員がいると聞いており,社内でも一時所得に該当するという意見が有力であったことに加えて,平成12年12月末日をもってP14社を退職しているので給与所得には該当しないと考えたことによるものである。
しかるところ,原告の平成12年分の所得税及び平成13年分の所得税の各確定申告(以下「本件各確定申告」という。)当時(すなわち,平成13年2月19日及び平成14年3月11日当時),本件アワードの課税時期や所得区分等の課税上の取扱について直接明文をもって定めた法令の規定,通達の定め,裁判例や課税庁の公的見解は一切存在しなかった。
また,本件各確定申告当時,ストックオプションの所得区分が給与所得に当たるのか一時所得に当たるのかについての裁判所の判断は分かれており,これについて初めて最高裁の判断が示されたのは平成17年1月25日であり,課税庁が変更後の取扱い(給与所得として取り扱う旨)を初めて通達に明記したのは平成14年6月の所得税基本通達の改正によってであった。
さらに,本件ガイドラインの記載は,ストックオプションの所得区分についての裁判例がなく,課税庁による変更後の取扱いが通達によって明らかにされる前の平成12年1月1日付けで作成されたものであり,一つの見解を述べたにすぎないものであった上,「vest」後に株式の時価が下落した場合や退職した場合の取扱いについて全く解説されていないなど,内容としても不十分なものであって,信頼することができるものではなかった。
本件アワードがストックオプションと同視し得るほど類似しているにもかかわらずその課税時期を異にすると判断するのであれば,課税庁として法令あるいは少なくとも通達によりその旨の見解を明らかにすべきであったが,現在に至るまで何の措置も執られていない。
また,本件アワードの所得区分についても,ストックオプションの場合と同様に,少なくとも平成14年6月の所得税基本通達の改正によって初めてストックオプションに関する変更後の取扱いを通達に明記するまでの間は,課税庁において必要な措置を講じていなかったというべきである。
もとより,本件ガイドラインは,課税庁の公式見解を述べたものではない。
以上のような状況の下においては,本件各確定申告当時原告において本件アワードの課税時期や所得区分を正確に判断することは困難であったのであり,本件アワードの課税については当該制度と同視し得るほど類似しているストックオプションの課税の取扱いの影響を受けざるを得なかったのであって,原告が,ストックオプションに関する議論を参考にして,ストックオプションが権利行使による入金等のあった時点で課税される以上,本件アワードについても当該株式の売却又は名義変更の意思表示をした時点で課税されると考え,また,その権利行使益を一時所得として申告したとしても,それをもって原告の主観的事情に基づく単なる法律解釈の誤りにすぎないということはできない。
したがって,原告の責めに帰することができない客観的な事情があり,これによって誤った納税者である原告に過少申告加算税を賦課することは不当又は酷になるので,国税通則法65条4項にいう正当な理由が認められるべきである。
(被告の主張)
ア 国税通則法65条4項にいう「正当な理由があると認められる」場合とは,真に納税者の責めに帰することのできない客観的な事情があり,当初から適正に申告し納税した納税者との間の客観的不公平の実質的な是正を図るとともに過少申告により納税義務の発生を防止し適正な申告納税の実現を図りもって納税の実を挙げようとする行政上の措置としての過少申告加算税の趣旨に照らしてもなお納税者に過少申告加算税を賦課することが不当又は酷になる場合をいう。
しかるところ,ストックアワードによる利益が一時所得に当たるとの公的見解が示されたことはなく,また,そのような立場に立った裁判例もない。
また,原告が,税務署職員又は税理士から,直接,ストックアワードによる利益が一時所得に当たるとの説明を受けたこともない。
さらに,ストックアワードの制度からみて,ストックオプションとは異なり,客観的に権利確定(vest)の時点で所得が発生することは合理的に理解することができたはずである。
この点,原告は,本件アワード3に係る所得を平成13年分の所得税の確定申告において一時所得として申告した理由について,社内で税理士に問い合わせた社員がおり,一時所得に該当するという意見が有力であったこと,既にP14社を退職していたので,給与所得には該当しないと考えたなどと主張するが,これらはあくまで主観的な事情にすぎない。
また,原告は,入金によって初めて納税資金が確保でき,納税が可能になるから,本件アワードに係る株式の売却による入金があった時点で課税されると考えて確定申告を行ったなどと主張するが,課税の対象となる所得を現実の現金収入ととらえたことによる税法の不知又は誤解にすぎない。
以上のとおり,本件においては,原告の責めに帰することのできない客観的事情は何ら存在しない。
また,本件ガイドラインには,権利確定(vest)時において給与所得が発生することや,売却するしないにかかわらず納税義務が生ずることが明確に記載されているにもかかわらず,原告は,それに従わず,かつ,本件ガイドラインを送付した際の送付文書(乙5の3)に「ご不明な点がありましたら,最寄の税務署にお問合せ頂きますようお願い致します。」と記載されているにもかかわらず,当該問い合わせをすることもしないまま,自己に有利になるようあえて給与所得としての申告をしなかったものである。
したがって,原告にとって過少申告加算税を賦課することが不当又は酷ということもできない。
イ 最高裁平成17年(行ヒ)第20号同18年10月24日第三小法廷判決・民集60巻8号3128頁及び最高裁平成17年(行ヒ)第96号同18年11月16日第一小法廷判決・裁判集民事222号243頁は,ストックオプションに係る権利行使益を一時所得として申告したことについて国税通則法65条4項にいう正当な理由があると判示している。
しかしながら,ストックオプションの場合は,課税庁が,一時所得との見解を公にし,その後,取扱いを変更したという事情があり,当該取扱い変更の事実が重視されているのに対し,本件アワードについては,そのような事情はない。
また,ストックオプションの場合,一時所得に当たるという判断を示した下級審判決があり,最高裁判決によって給与所得との結論が示されて決着したのは平成17年1月であったのに対し,ストックアワードに関してはそもそも裁判例が見当たらず,原告の見解を支える裁判所の判断もないという点において,ストックオプションの場合と決定的に異なる。
この点,原告は,ストックアワードについて法令や通達などの課税庁の公的見解や裁判例が全くない中,本件アワードは,ストックオプションと共通点が多く,ストックオプションに係る課税の取扱いの影響を受けざるを得なかったなどと主張する。
しかしながら,ストックオプションとストックアワードとの制度的な違いに加え,P14社もその違いを明確に意識して本件ガイドラインを発行していることを考慮すれば,客観的にみて,ストックオプションとストックアワードを同一視することがやむを得ないといえるような事情はない。
仮に原告が所得税の確定申告に当たりストックオプションに関する課税上の取扱いを念頭に置いたとしても,それは誤解や混同に基づく単なる主観的な問題にすぎないのであって,原告の責めに帰することのできない客観的事情とは到底いうことができない。
むしろ,原告は,本件ガイドラインに記載された内容を合理的根拠なく,かつ,必要な努力をしないまま無視したものであって,ストックオプションに係る課税対象である権利行使益と本件アワードに係る課税対象を同一のものと考え,ストックオプションに係る課税の取扱いの影響を受けて,平成13年分の本件アワードに係る所得についてこれを一時所得として申告を行ったとは到底考えられない。
以上のとおり,客観的にストックオプションとストックアワードとは制度も解釈をめぐる状況も異なる上,主観的にも原告はストックオプションとストックアワードとを同一視していたとはいえないから,ストックオプションに関する上記各最高裁判例を援用して国税通則法65条4項にいう正当な理由があるとすることもできない。
ウ 以上のとおりであるから,本件について国税通則法65条4項にいう正当な理由を認めることはできない。

第3 当裁判所の判断

1 本件アワードに係る経済的利益の課税時期(争点1)
(1) 所得税法36条1項は,その年分の各種所得の金額の計算上収入金額とすべき金額又は総収入金額に算入すべき金額は,別段の定めがあるものを除き,その年において収入すべき金額(金銭以外の物又は権利その他経済的な利益をもって収入する場合には,その金銭以外の物又は権利その他経済的な利益の価額)とする旨規定し,同条2項は,同条1項の金銭以外の物又は権利その他経済的な利益の価額は,当該物若しくは権利を取得し,又は当該利益を享受する時における価額とする旨規定しているところからすれば,同法は,現実の収入がなくても,その収入の原因である権利が確定的に発生したときは,その時点で所得の実現があったものとして,当該権利発生の時期の属する年分の課税所得を計算するいわゆる権利確定主義を採用しているものと解される。
前記前提事実によれば,原告は,昭和57年4月1日にP14社(P8株式会社)に雇用され,平成8年11月1日から同社のリージョナル・マーケティング・ダイレクターを務め,平成9年3月24日から平成12年12月31日まで同社の取締役を務めていたところ,リージョナル・マーケティング・ダイレクター及び取締役在職中の平成8年11月30日から平成10年11月30日にかけて,同社の株式の100%を間接的に保有するP5社から別表1のとおり本件アワード・プランに基づく本件各アワード(通常報奨及び任意報奨)を付与されたというのであり,これらの事実関係及び弁論の全趣旨によれば,本件各アワードの付与に当たり,原告とP5社との間で,本件各ガイドに記載された内容の本件アワードプランに従う旨の合意が成立したものと認められる。
しかるところ,前記前提事実(2)及び本件各ガイド(甲5,6,乙3,4)によれば,本件アワード・プランの下において,本件アワードは,P5社及びその子会社を含むP17・グループの各社に雇用される正規の従業員に対しP5社から無償で付与され,通常報奨については各基準日において資格を有する従業員の全員に対し各従業員の年間給与額に比例して,任意報奨については資格を有する従業員の中から任意に選抜された者に対して付与され,本件アワードを付与された従業員は,本件アワードを譲渡したり担保に供したりすることができず,また,当該従業員の退職等により雇用が終了した場合には,「vest」されていない本件アワードは原則として補償なしに取り消されるものとされ,さらに,任意報奨については,「vest」された後の本件アワードであっても,雇用終了日における本件アワードに係る株式等の市場価格を超えたその後の価格上昇についての権利を有しないものとされ,本件アワード・プランの参加者は,P5社傘下の企業の売上向上努力に貢献し,傘下の企業の顧客の要求を満たし,期待を上回る実績を上げることに務める等の役割を負うものとされている。
これらの事実関係によれば,本件アワード・プランは,P17・グループの各社に雇用される従業員等に対する精勤の動機付け(インセンティブ)とすることを企図して設けられた従業員報奨制度であるということができる。
そして,前記前提事実(2)によれば,本件アワード・プランにおいては,本件アワードに係る証書又は当該証書が転換されたP5社の株式は,従業員信託に係る受託者(P18社)において保管されるものとされ,従業員は,当該株式等が「vest」されるまでは,当該株式等に関する配当の支払を受けることができず,当該配当は受託者により保持され,また,従業員は,議決権を行使することができず,受託者により参加者の利益に従って議決権が行使されるが,当該株式等は,該当する資格基準日から3年が経過するなど所定の条件が満たされたときに諮問委員会の決定する日に「vest」され,「vest」されると,当該株式等の法的所有権は受託者のもとに残るものの,従業員は,当該株式等の受益所有権を得,受託者に指示して当該株式等の売却を行うことができ,また,受託者から「vest」の時点まで累積された配当の支払を受けるとともに,受託者を通して「vest」後の株式等に関する配当の支払を受けることができ,さらに,受託者に指示して当該株式に係る議決権を行使することができるほか,通常報奨については,P5社の株式の証券取引所への上場後,任意の時点において受託者に対し「vest」された株式の法的所有権を自らの名義に変更するよう指示する権利を有し,当該株式等の売却ないしその法的所有権の名義変更の指示についての期間制限等の定めはなく,受託者は,従業員の指示に従って行動するものとされている。
他方,前記前提事実(2)によれば,任意報奨については,「vest」された後も,従業員は,受託者に対し「vest」された株式の法的所有権を自らの名義に変更するよう指示する権利を有さず,受託者に指示して当該株式等の売却を行うことができるが,当該株式等の最終売却収益のうち77.778米ドルが信託に留保されるものとされ(当該株式等の価格が単位当たり77.778米ドルを超過した場合に売却指示をすることができるものとされる。),受託者は,該当する資格基準日以降6年が経過し,証書が株式に転換されているか又は譲渡可能になって以降3年が経過し,かつ,任意アワード通知等に規定された条件が満たされて以降3年が経過した場合には,その保有する株式等の一部を売却してその収益を保有するか又はこれを再所有し,その余の株式等の法的所有権を従業員に移転することにより,当該株式等に対する上記の信託留保利益を実現する権利を有するものとされている。
なお,甲5,6,乙3,4,乙5の1によれば,本件各ガイドには,質疑応答として,従業員は地域コーディネーターに理由を書面で伝えることによって証書のアワードの授与を断ることもできること,アワードを受領した従業員が考えが変わり辞退しても地域コーディネーターに理由を書面で伝えることにより雇用契約を維持することができること,従業員がアワードを受領したくない場合でもその現在価値を現金で受け取ることは本件アワード・プランの目的に反しできないこと,などが記載されており,また,本件ガイドラインには,「Award Planによる権利が確定(Vest)した場合には,これを放棄(拒否)しない限り,経済的利益としての給与所得が発生します。」と記載されているところからして,本件アワード・プランにおいては,本件アワードの「vest」前のみならず「vest」後も従業員等においてこれを辞退ないし放棄(拒否)することができるものとされていると認められるが,「vest」後の放棄(拒否)に係る期間制限等についての定めはない。
以上のとおり,本件アワード・プランの下においては,通常報奨のみならず任意報奨についても,本件アワードが「vest」された時点でこれを付与された従業員等は本件アワードに係るP5社の株式等の受益所有権を取得し,受託者を介して「vest」時までの累積配当及び「vest」時後の配当を受領することができるほか,受託者に指示して当該株式に係る議決権を行使することができ,また,受託者に指示して当該株式等の売却を行うことができるものとされ,通常報奨の場合には,従業員等は,「vest」後任意の時点において受託者に指示して当該株式の法的所有権を自らの名義に変更することができ,当該株式等の売却ないしその法的所有権の名義変更の指示についての期間制限等は定められておらず,任意報奨の場合には,当該株式等の売却指示は当該株式等の価格が単位当たり77.778米ドル(信託留保利益)を超過した場合に行うことができるものとされ,従業員等は,受託者に対し当該株式の法的所有権を自らの名義に変更するよう指示する権利を有さず,受託者において,所定の期間の経過後,その保有する株式等の一部を売却するか又はこれを再所有し,その余の株式等の法的所有権を従業員等に移転することにより,信託留保利益を実現する権利を有するものとされており,通常報奨についても任意報奨についても,従業員等は,「vest」前のみならず「vest」後においても,本件アワードを辞退ないし放棄(拒否)することができるものとされているが,「vest」後に放棄(拒否)する場合についての期間制限等の定めはないというのである。
このような事実関係の下においては,本件アワードが「vest」されることによって,従業員等は,本件アワードに係るP5社の株式に係る配当受領権,議決権,売却処分権といった,当該株式が包含する主要な権利,利益のすべてを受益所有権として享受し,「vest」後も当該株式の法的所有権が受託者に残るものとされているのは,本件アワード・プランが従業員信託を利用する形で制度設計されていることに伴うものにすぎず,また,任意報奨において従業員等に「vest」後当該株式の法的所有権を自らの名義に変更するよう指示する権利が認められていないのも,信託留保利益の実現を確保するための手続的な制約にすぎないということができる。
以上に加えて,通常報奨についても任意報奨についても,「vest」後に本件アワードを放棄(拒否)することができるものとされているものの,「vest」後の本件アワードに係る株式についての受託者に対する売却(及び通常報奨についてはその法的所有権の名義変更)の指示や本件アワードの放棄(拒否)についての期間制限は定められていないことを併せ考えると,本件アワード・プランにおいては,従業員等は,「vest」によりその「vest」時に本件アワードに係る株式についての受益所有権を特段の意思表示等を要せずに自動的に取得する仕組みがとられていると解するのが合理的かつ自然であり,受益所有権の取得を従業員等の意思表示等にかからせる仕組みがとられているとは認め難い。
そうであるとすれば,本件アワード・プランに従って本件アワードを付与された従業員等は,通常報奨についても任意報奨についても,本件アワードの「vest」によりその「vest」時に本件アワードに係る株式の受益所有権相当額の経済的利益を現実に取得するものというべきであり,上記のような受益所有権の内容にかんがみると,当該経済的利益は,当該株式の「vest」時における時価相当額であると認められる。
以上検討したところによれば,本件アワード・プランに基づき本件アワードを付与された従業員等については,本件アワードの「vest」時に本件アワードに係るP5社の株式の時価相当額の経済的利益を取得し,当該経済的利益(当該株式の「vest」時における時価相当額)が所得税法36条1項にいう「収入すべき金額」として当該「vest」時に係る年分の所得税の課税対象になるというべきである。
(2) 原告は,本件アワード・プランにおける「vest」は,本件アワードを付与された従業員等においてその時点から無償でP5社の株式を取得し又は当該株式の売却により現金を取得することが可能な地位に就くことを意味するにすぎず,本件アワードが「vest」されただけでは,本件アワードの権利は未確定であって,「vest」後に本件アワードの権利を享受する(受益する)かこれを辞退するかについての選択が従業員等の意思にゆだねられており,従業員等において受託者に対し本件アワードに係る株式の売却を指示し又は当該株式の法的所有権を自らに名義変更するよう指示することによりその権利を行使する旨の意思表示をして初めて,当該従業員等の本件アワードに基づく経済的利益を享受する権利が確定するなどと主張する。
しかしながら,前記認定のような本件アワード・プランの内容,とりわけ,本件アワードを付与された従業員等が本件アワードの「vest」後に行うことができるとされているものの内容が,本件アワードに係るP5社の株式に係る配当の受領,受託者を介しての議決権の行使及び当該株式の処分といった株主の地位に本質的かつ重要なものであり(処分のみならず配当の受領及び議決権の行使も株主にとって重要な権利であることはいうまでもない。),これらの行為はいずれも「vest」後特段の意思表示を要せずに従業員等において行うことができるものとされていること,「vest」後に従業員等において本件アワードを放棄(拒否)することができるものとされているとしても,「vest」後の本件アワードに係る株式についての受託者に対する売却(及び通常報奨についてはその法的所有権の名義変更)の指示や本件アワードの放棄(拒否)についての期間制限は定められていないことからすれば,原告の主張するように,本件アワードが「vest」された後においても本件アワードを付与された従業員等において本件アワードに係る株式の売却を指示し若しくは当該株式の法的所有権を自らに名義変更するよう指示することによりその権利を行使する旨の意思表示をするか又はこれを辞退する旨の意思表示をするかの選択権(形成権)を有し,当該従業員等において当該選択権を行使するまでは本件アワードに係るP5社の株式についての権利の帰属が法的に確定しないという仕組みが採られていると解するのは困難というほかない。
原告の主張するように本件アワード・プランにおいて「vest」によりその時点で従業員等の意思表示とは無関係に自動的に株式の名義変更が行われるような仕組みが採用されていないとしても,「vest」により従業員等が取得する受益所有権の内容が上記のような株主の地位に本質的かつ重要なものであることからすれば,「vest」後もその法的所有権が受託者に残る仕組みがとられているのは,本件アワード・プランが当初から従業員信託の形で構成されている制度設計に由来する技術的措置にすぎないというべきであり,これをもって原告の主張するような仕組みが採られていることの根拠とすることはできない。
また,原告の主張するように本件アワードが「vest」されただけでは従業員等に自動的に株主総会の招集通知が送られたり配当金が振り込まれるというような仕組みにはなっておらず受託者に対する招集通知の送付先の指定や配当金の振込口座の指定等をする必要があるとしても,従業員信託の構成がとられていることに伴う事務処理上の便宜のための手続的制約にすぎないことが明らかである。
また,原告は,本件アワード・プランにおける本件アワードが「vest」されたことによる従業員等の地位は,ストックオプションにいう会社から新株予約(購入)権を付与され,権利者においていつでもそれを行使してもよい状態と同視することができ,本件アワードとストックオプションとは,その付与が無償であるか有償であるかの違いにすぎないから,ストックオプションが権利行使時にその権利行使益に対して課税される以上,本件アワードについてもストックオプションの場合との取扱いの均衡上,「vest」時ではなく権利行使時にその権利行使益に対して課税されるべきであるなどと主張する。
しかしながら,従業員等に対する精勤の動機付けとすることなどを企図して従業員等にその勤務先会社ないしその親会社等の株式をあらかじめ定められた権利行使価格で取得することができる権利を付与するいわゆるストックオプション制度においても,従業員等に付与されたストックオプションに対する所得税の課税時期及び課税内容は,当該制度の具体的内容及び当該ストックオプションが付与された際の当該従業員等とこれを付与した会社との間の合意の具体的内容に応じて個別的に検討されるべきものであるから,抽象的にストックオプションと本件アワードとを比較して課税上の取扱いの均衡を論じることはそもそも適当でないというほかないが,少なくとも,ストックオプションにおいては,権利行使をして初めて当該株式に係る配当の受領,議決権の行使及び当該株式の処分等が可能になるものとされているのが通常であると考えられる上,少なくとも平成17年最高裁判決の事案においては,当該ストックオプションの一般的な権利行使期間並びにこれを付与された上告人の権利行使時期及びその方法が具体的に定められていたというのであるから,平成17年最高裁判決が当該ストックオプションの権利行使時における権利行使益が所得税の課税対象であることを前提とする判示をしているからといって,当該ストックオプションとその制度の内容が異なる本件アワードの課税時期及び課税内容について平成17年最高裁判決に係るストックオプションと同様に解すべき理由はない。
以上のとおりであるから,原告の上記主張はいずれも採用することができない。
(3) 原告は,本件アワード4及び5は,原告が平成12年12月31日にP14社を退職したことをもっていったん失効し,失効した状態のまま,原告とP17・グループの中でアジア地域を代表するP24社の担当者との間で復活交渉を行った結果,P5社はこれらの本件アワードを原告に復活させることを決定し,平成14年1月9日にこれらの本件アワードに係るP7社の株式が証券会社の原告の口座に転送されてきたことにより,原告はこれを再取得するに至ったが,いつ再取得の手続がされたのかの連絡は原告にされなかったのであるから,本件アワード4及び5が原告に転送(交付)された平成14年1月9日をもってその利益が実現されたというべきであり,したがって,本件アワード4及び5に係る権利行使益については,平成14年分の所得税の課税対象とすべきである旨主張する。
前記前提事実(2)ウによれば,本件各ガイドにおいて,通常報奨についても任意報奨についても,「vest」されていないアワードは,関連する配当とともに,従業員の雇用終了日に補償なしに自動的に取り消されるが,傷害又は障害による雇用の終了,退職(通常の退職日又は雇用主が同意した別の退職日)又は情状酌量に値する理由による離職の場合,受託者は,諮問委員会の勧告により,アワードの解消を補償するために,離職した従業員に対してその裁量により現金支払を行うか,又は諮問委員会は受託者に対し従業員が「vest」されていない証書又は株式を保持し続けることができるように勧告を行うことがあり,権利が保持されている場合,その従業員は通常のタイムスケジュールに従って利益を実現することができるものとされている。
これによれば,本件アワード・プランの下においては,本件アワードを付与された従業員等がその「vest」前に退職したときは,原則として本件アワードに関する権利が消滅するが,諮問委員会の勧告に基づいて,受託者は,本件アワードに関する権利の消滅に対する補償として従業員等に現金を支払うか,又は従業員等に本件アワードに関する権利を消滅させずにそのまま保持し続けさせる措置をその裁量により執ることができるものとされていると認められるのであって,後者の措置が執られた場合に当該従業員等が保持し続ける本件アワードに関する権利は,通常のタイムスケジュールに従って利益を実現することができるものとされているところからしても,退職前に付与されていた権利が同一性を保持してそのまま存続すると解するのが素直であり,その時点で改めて同一内容の本件アワードが付与されると解するのは困難である。
しかるところ,前記前提事実(3)に加えて甲7,10,12,原告本人及び弁論の全趣旨によれば,原告は,P14社を退職する前の平成12年12月初めころ,同社から退職の意向を打診されるとともに,同社のリストラに協力して退職すれば原告に付与されていた本件アワードの権利を消滅させずに存続させる措置が受けられる旨の説明を受けたこと,原告が同月31日に退職した際,本件アワード3ないし5はいまだ「vest」されていなかったが,退職に当たり,同社から原告に対し,退職しても本件アワードに関する権利が残るという趣旨が記載された文書が送付されてきたこと,本件アワード3ないし5は原告の退職後の平成13年7月3日に「vest」されたが,原告は,「vest」に先立って,これらの本件アワードが上記の日に「vest」される旨の通知を受け,同年6月14日付けで,これらの本件アワードのうち本件アワード3についてはP7社の株式3527.27株を売却するよう依頼する旨のP7社の株式売却申請書(甲7の1)及びP7社の株式をP21株式会社の原告名義の口座に転送(トランスファー)するよう依頼する旨のP7社の通常株式転送申請書(甲10の1)を受託者であるP18社あてにファクシミリ送信したこと,これらの本件アワードが「vest」された日の約1,2週間後,P18社から本件アワード4及び5に関する原告の権利が失効しているといった趣旨の連絡が入ったため,原告は,P14社の担当者に対しリストラプログラムによる退職であるから失効扱いはおかしいので調査してほしい旨伝え,同担当者においてP24社の担当者との間で交渉が持たれたが,進展しなかったことから,原告において直接P24社の担当者と交渉した結果,同担当者は原告の主張を認めて原告にP18社あてに再度申請をするよう指示し,原告は,同年11月28日付けで上記申請書をP18社の「P25」あてにファクシミリ送信したこと,その後,P18社から特段の連絡がないまま,平成14年1月9日,本件アワード4及び5に係るP7社の株式611株がP21株式会社の原告名義の口座に転送されてきたこと,以上の事実が認められ,この認定を左右するに足りる証拠はない(なお,本件アワード3については,「vest」に先立ってP18社から前記前提事実(3)アのP5社の株式のP7社の株式への交換によるP7社の株式取得見込み額の通知がされているのに対し,本件アワード4及び5について同様の通知がされたことを認めるに足りる書証は提出されていないが,上記のとおり原告が本件アワード3と資格基準日の異なる本件アワード5も含めて本件アワード3ないし5につき平成13年6月14日付けで受託者であるP18社あてにP7社の株式売却申請書及びP7社の通常株式転送申請書をファクシミリ送信している事実に照らすと,本件アワード3(任意報奨)のみならず本件アワード4及び5(通常報奨)についても,上記申請書の送信に先立ってその「vest」日が原告に通知されていた事実が認められる。)。
上記認定事実によれば,原告が付与されていた本件各アワードで退職時に「vest」されていないものについて,勤務先のP14社から,退職に先立って,原告に対し,これらの本件アワードに関する原告の権利を消滅させずに存続させる旨の説明がされるとともに,退職に当たり,同社から原告に対し,退職しても本件アワードに関する権利が残るという趣旨が記載された文書が送付され,原告の退職後,これらの本件アワードについてあらかじめ「vest」日が通知されたというのであり,「vest」後に受託者であるP18社から本件アワード4及び5について原告の権利が失効しているといった趣旨の連絡がされるまで,通常報奨である本件アワード4及び5について任意報奨である本件アワード3と異なる取扱いがされ又はその可能性があるといった説明ないし通知等が原告に対してされた形跡はなく,また,異なる取扱いがされるべき合理的理由も見いだし難い。
これらによれば,原告の退職に当たり,本件アワード3のみならず本件アワード4及び5についても,本件アワード・プランに基づき,原告の退職後も消滅せずに原告がその権利を保持し続ける旨の措置が確定的に執られていたものと認めるのが相当であり,本件アワード4及び5について原告が受託者であるP18社に対しP7社の通常株式転送申請書を送信してP7社の株式の転送を指示したにもかかわらず前記認定のとおりその「vest」後速やかに転送手続がされなかったのは,P18社の手違いによるものにすぎないというべきである。
そうであるとすれば,本件アワード4及び5についても,本件アワード・プランに基づいてその「vest」時にこれらの本件アワードに係るP7社の株式の受益所有権を取得したものというべきであり,その後受託者の手違いにより原告において取得した受益所有権の円滑な行使が事実上妨げられたとしても,前記認定のような内容の受益所有権を確定的に取得している以上,所得税の課税対象とすべき所得の実現という意味においては,当該受益所有権の取得をもってこれらの本件アワードに係るP7社の株式の時価相当額の経済的利益を「収入すべき金額」として得たものというべきである。
以上のとおりであるから,本件アワード3はもとより本件アワード4及び5についても,その「vest」時にこれらの本件アワードに係るP7社の株式の時価相当額の経済的利益を取得し,当該経済的利益(当該株式の「vest」時における時価相当額)が所得税法36条1項にいう「収入すべき金額」として当該「vest」時に係る年分(平成13年分)の所得税の課税対象になるというべきである。
したがって,原告の前記主張を採用することはできない。
2 本件アワードに係る経済的利益の所得区分(争点2)
(1) 前記認定事実等によれば,本件アワード・プランは,P17・グループの各社に雇用される従業員等に対する精勤の動機付け(インセンティブ)とすることを企図した従業員報奨制度として設けられたものであって,本件アワード・プランに基づいて本件アワードを付与された従業員等は,本件アワードを譲渡したり担保に供したりすることができず,諮問委員会の決定する「vest」時に初めてその付与された本件アワードに係るP5社の株式等の受益所有権としてその時価相当額の経済的利益を受けるものとされているのであり,上記経済的利益は,P5社から従業員等に与えられた給付に当たるものというべきである。
上記経済的利益の発生及びその金額がP5社の株式等の価格の動向と諮問委員会による本件アワードの「vest」の決定時期に左右されるものであるとしても,諮問委員会の決定した「vest」時における本件アワードに係るP5社の株式等の時価相当額の経済的利益が従業員等の特段の意思表示ないしこれに係る判断とは無関係に自動的に従業員等に付与されるのであるから,上記経済的利益がP5社から従業員等に与えられた給付に当たることを否定することはできない。
もっとも,本件各アワードが「vest」されたことにより原告が得た経済的利益は,原告が従業員としての雇用関係も役員としての委任関係も有しないP5社から与えられたものであるが,前記認定事実に加えて甲12,乙2,原告本人及び弁論の全趣旨によれば,P5社は原告が勤務していたP14社の株式の100%を間接的に保有しているのみならず,P14社の業務執行に関する決定のほとんどは英国ロンドンにある「本社機構」が行い,P14社の取締役は議事録に署名捺印する程度の形式的な存在であり,また,原告が就任していたリージョナル・マーケティング・ダイレクターは,当時英国ロンドンに存在したP26社(P14社とは別の法人)の統括本部のマーケティング部門上席副社長の指揮命令下にあり,原告は,取締役への就任についてはP14社の代表取締役から伝えられたものの,リージョナル・マーケティング・ダイレクターへの任命は上記ロンドンのP26社によるものであったというのであり,原告の業務執行のうちP14社の指揮命令によるものは半分程度であったというのである。
以上の事実に加えて,前記認定のとおり,本件アワード・プランの参加者は,P5社傘下の企業の売上向上努力に貢献し,傘下の企業の顧客の要求を満たし,期待を上回る実績を上げることに務める等の役割を負うものとされていることをも併せ考えると,P5社は,少なくとも間接的にP14社の従業員等の人事権及び経営権等の実権を握ってこれを支配しているものとみることができるのであって,原告は,P5社の統括の下にP14社のリージョナル・マーケティング・ダイレクターないし取締役としての職務を遂行していたものということができる。
そして,前記認定のとおり,本件アワード・プランは,P17・グループの各社に雇用される従業員等に対する精勤の動機付け(インセンティブ)とすることを企図した従業員報奨制度として設けられたものであって,P5社は,原告が上記のとおりその職務を遂行しているからこそ,原告に対し本件アワード・プランに基づき本件各アワードを付与したものであって,本件各アワードが「vest」されたことにより原告が取得した前記経済的利益(本件各アワードに係るP5社の株式等の「vest」時における時価相当額)は,原告が上記のとおりその職務を遂行したことに対する対価としての性質を有する経済的利益であることが明らかである。
そうであるとすれば,当該経済的利益は,雇用契約又はこれに類する原因に基づき提供された非独立的な労務の対価として給付されたものとして,所得税法28条1項所定の給与所得に当たるというべきである。
(2) もっとも,本件アワード3ないし5については,原告はそれらが「vest」される前に退職しているところ,本件アワード・プランにおいては本件アワードを付与された従業員等の雇用が当該アワードの「vest」前に終了したときは当該アワードに関する権利は原則として消滅するものとされているにもかかわらず,前記のとおり,原告の退職後もこれらの本件アワードが消滅せずに原告がその権利を保持し続ける旨の措置が執られたものであり,原告は,本件アワード3ないし5に係る経済的利益は,仮に一時所得に当たらないとしても,退職所得に当たる旨主張する。
所得税法が退職所得につき所得税の課税上他の給与所得と異なる優遇措置を講じているのは,一般に,退職手当等の名義で退職を原因として一時に支給される金員は,その内容において,退職者が長期間特定の事業所等において勤務してきたことに対する報償及び当該期間中の就労に対する対価の一部分の累積としての性質を持つとともに,その機能において,受給者の退職後の生活を保障し,多くの場合いわゆる老後の生活の糧となるものであるため,他の一般の給与所得と同様に一律に累進税率による課税の対象とし,一時に高額の所得税を課することとしたのでは,公正を欠き,かつ,社会政策的にも妥当でない結果を生ずることになることから,このような結果を避ける趣旨に出たものと解される。
従業員の退職に際し退職手当又は退職金その他種々の名称の下に支給される金員が所得税法30条1項にいう退職所得に当たるか否かについては,同項の規定の文理及び以上説示の退職所得に対する優遇措置についての立法趣旨に照らしてこれを決するのが相当であり,このような観点からすれば,同項にいう「退職手当,一時恩給その他の退職により一時に受ける給与」に当たるというためには,それが,1 退職,すなわち,勤務関係の終了という事実によって初めて給付されること,2 従来の継続的な勤務に対する報償ないしその間の労務の対価の一部の後払の性質を有すること,3 一時金として支払われること,の各要件を備えることが必要であり,また,同項にいう「これらの性質を有する給与」に当たるというためには,それが,形式的には上記各要件のすべてを備えていなくても,実質的にみてこれらの要件の要求するところに適合し,課税上,「退職により一時に受ける給与」と同一に取り扱うことを相当とするものであることを必要とすると解される。
確かに,前記のとおり,本件アワード・プランは,本件アワードを付与された従業員等が「vest」時まで精勤することを前提に報奨として「vest」時における本件アワードに係るP5社の株式等の時価相当額の経済的利益を給付として与えることを原則としているものであり,上記の例外として従業員等が退職後も「vest」されていない本件アワードの権利を保持し続ける旨の措置は,傷害又は障害による雇用の終了,退職(通常の退職日又は雇用主が同意した別の退職日)又は情状酌量に値する理由による離職の場合に,諮問委員会の勧告により,本件アワードの解消に対する補償としての現金支払に代えて,行い得るものとされているのであるから,上記の例外措置に係る給付制度は,本件アワード・プランが原則として規定する従業員報奨制度とはその性格を異にするところがあるということができなくもない。
しかしながら,前記のとおり,本件アワード・プランにおいては,上記の例外措置について,当該従業員等の在職中に精勤の動機付けとすることなどを企図して付与されていた本件アワードに関する権利を退職後もその同一性を保持したまま存続させる仕組みがとられているのであって,従業員等の退職に当たり従前付与されていた本件アワードとは別の本件アワードをその時点で新たに付与する仕組みがとられているものではないところからして,本件アワード・プランは,あくまでも,上記例外措置を同一の従業員報奨制度に基づく給付の一態様として位置付けていることが明らかであり,これとは別個の目的及び内容の給付制度を定めたものであると解するのは困難である。
また,上記例外措置に基づいて従業員等に与えられる給付(退職後も保持し続けるものとされた本件アワードに係るP5社の株式等の「vest」時における時価相当額の経済的利益)も,上記例外措置がとられるための要件として規定されているところをしんしゃくしても,当該従業員等がその在職中にその職務を遂行したことに対する対価としての性質を有することは明らかであり,その点において当該従業員等が退職しなかった場合に本件アワード・プランに基づいて与えられたであろう給付と異なるものではない。
以上のとおり,本件アワード・プランは,その形式上,従業員等の退職後に例外的に本件アワードに係る経済的利益を付与する仕組みとして,従業員等の退職の時点で当該従業員等が従前付与されていた本件アワードとは別の本件アワードを新たに付与する仕組みを採用せず,あくまでも当該従業員等に在職中付与されていた本件アワードに関する権利をその同一性を保持したまま存続させる仕組みを採用しているのであり,上記例外措置に基づいて退職した従業員が退職後も保持し続ける本件アワードは,本件アワード・プランに基づき精勤の動機付けとすることなどを企図して付与されものであり,その「vest」時に付与される給付は在職中の職務の遂行に対する対価としての性質を有するものである点において,本件アワード・プランに基づいて付与されその在職中に「vest」される本件アワードと何ら異なるところはないということができる。
そうであるとすれば,上記例外措置としてその退職後も保持し続けるものとされた本件アワードの「vest」により当該従業員等に付与される上記経済的利益は,前記1の要件,すなわち,退職(勤務関係の終了)という事実によって初めて給付されるものであるとの要件を欠くものというほかない。
また,以上説示の退職所得に対する優遇措置についての立法趣旨に照らしても,上記経済的利益をもって実質的にみて1の要件の要求するところに適合し,課税上,「退職により一時に受ける給与」と同一に取り扱うことを相当とするものであると認めることもできないというべきである。
以上のとおりであるから,本件アワード3ないし5に係る経済的利益が退職所得に当たる旨の原告の前記主張も,採用することができない。
(3) 原告は,本件アワードの権利行使時における株式の価格が権利行使可能時における価格より著しく下落した場合には,権利行使可能時に課税された所得税の一部を還付する等の立法措置が講じられなければ不合理であるところ,そのような措置は何ら設けられていないから,原告に対する課税処分は憲法29条1項に違反するというべきであり,このような税制の不備を補う観点からも,本件に限っては,その課税時期を本件アワードの権利行使時とした上で,その権利行使益を一時所得とするよう,所得税法36条等を合憲的に解釈すべきであるなどと主張する。
しかしながら,本件アワード・プランに従って本件アワードを付与された従業員等は,通常報奨についても任意報奨についても,諮問委員会が決定する本件アワードの「vest」時に特段の意思表示等を要することなく自動的に本件アワードに係るP5社の株式等の時価相当額の経済的利益を取得し,当該経済的利益は,当該従業員等の職務の遂行に対する対価としての性質を有する給付に該当することは,前記に認定説示したとおりであって,そのような経済的利益を給与所得として所得税の課税対象とすることは,何ら立法政策としての合理性を欠くということはできない。
したがって,原告の上記主張は,そもそも,その前提を欠くものというほかなく,採用することができない。
(4) 以上によれば,本件各更正処分には,原告の主張するような違法事由はなく,他の違法事由を認めることもできない。
3 国税通則法65条4項にいう正当な理由の有無(争点3)
(1) 以上認定説示したところによれば,原告は,平成12年分の所得税について,本件アワード1及び2に係るP5社の株式(本件アワード1につき5660株,本件アワード2につき702株)の各「vest」時(平成12年1月17日)における時価相当額を給与所得に係る「収入すべき金額」として確定申告をし,平成13年分の所得税について,本件アワード3ないし5に係るP7社の株式(本件アワード3につき3527.27株,本件アワード4につき345.45株,本件アワード5につき266.82株)の各「vest」時(平成13年7月3日)における時価相当額を給与所得に係る「収入すべき金額」として確定申告をすべきであったところ,平成12年分の所得税について,本件アワード1に係るP5社の株式5660株のうち420株の売却により受領した金額(470万4350円)のみを給与所得に係る収入金額として確定申告をし,また,平成13年分の所得税について,本件アワード1に係るP5社の株式のうち5240株及び本件アワード3に係る株式の売却により受領した金額(3244万6558円)のみを一時所得に係る収入金額として確定申告をしたというのである。
そこで,原告の平成12年分の所得税の確定申告において本件アワード1に係るP5社の株式のうち420株の売却により受領した金額のみを給与所得として申告し,本件アワード1に係るP5社の株式の全部及び本件アワード2に係るP5社の株式全部の「vest」時における時価相当額が給与所得に当たるものとしては税額の計算の基礎とされていなかったこと及び原告の平成13年分の所得税の確定申告において本件アワード3に係るP7社の株式(及び本件アワード1に係るP5社の株式のうち5240株)の売却により受領した金額のみを一時所得として申告し,本件アワード3ないし5に係るP7社の株式の「vest」時における時価相当額が給与所得に当たるものとしては税額の計算の基礎とされていなかったことについて,国税通則法65条4項にいう「正当な理由があると認められる」か否かについて検討する。
(2) 過少申告があっても例外的に過少申告加算税が課されない場合として国税通則法65条4項が定めた「正当な理由があると認められる」場合とは,真に納税者の責めに帰することのできない客観的な事情があり,過少申告による納税義務の違反者に対して過少申告加算税を課すことによって当初から適正に申告し納税した納税者との間の客観的不公平の実質的な是正を図るとともに過少申告による納税義務違反の発生を防止し適正な申告納税の実現を図りもって納税の実を挙げようとする行政上の措置としての過少申告加算税の趣旨に照らしてもなお,納税者に過少申告加算税を賦課することが不当又は酷になる場合をいうものと解される。
しかるところ,前記前提事実(6)に加えて甲12,原告本人及び弁論の全趣旨によれば,本件各確定申告当時,ストックアワードに係る課税上の取扱いに関する法令上特別の定めは置かれておらず,上記取扱いについて定めた通達等もなかったこと,本件各ガイドには,「参加者は,ほぼ確実に,アワード(任意アワード)の価格に応じて税及び従業員社会保障分担金の負担を負うことになる。」,「「vest」の際に,ほとんどの国の参加者は,その時のアワード(任意アワード)の価格に応じた税及び社会保障を支払わなければならない。」,「多くの国で,参加者が株式を売却して得たキャピタル・ゲインは課税の対象となる。
その税は,売却収益からそれ以前の段階で課税された価格を除いた価格に基づいて算出されることが多い。」,「税と社会保障の状況は国ごとに異なる。
上記の情報は,多くの国で起こり得る状況を想定して示したものにすぎない。」などと記述されていること,P14社作成の平成12年1月1日発行に係る本件ガイドラインには,「本ガイドラインは,・・・平成11年12月31日現在日本国において施行されている所得税法及びその関連法規に基づいて作成されております。」,「Award Planによる権利を付与(Grant)された従業員等は,当該権利が確定(Vest)したときに,その権利確定(Vest)時における株式の時価総額を利益として享受することになります(以下,「確定時の利益」といいます)。
さらに,確定(Vest)時の時価より時価が上回ったときに売却(Sale)することにより,その差額もまた利益として受け取ることができます(以下,「売却時の利益」といいます)。
本邦の所得税法上,「確定時の利益」は給与所得として課税され,「売却時の利益」は株式の譲渡所得として課税されることになります。」,「AwardPlanによる権利が確定(Vest)した場合には,これを放棄(拒否)しない限り,経済的利益としての給与所得が発生します。
この給与所得の支払元は,本プランの場合,海外の親会社と考えられますので,源泉徴収がされていない給与所得となり確定申告が必要です。
売却(Sale)する,しないにかかわらず,納税義務が生じますので十分注意してください。」などと記述されていること,原告は,本件アワード1の「vest」時(平成12年1月17日)に受託者に指示して売却したP5社の株式420株の売却代金については勤務先会社(P14社)の社内で配布されたガイドの記載に従ってこれを給与所得として平成12年分の所得税の確定申告をしたが,本件アワード2については,その「vest」時(同年1月17日)に受託者に指示してP5社の株式の原告の証券会社の口座への転送手続を行った後,同年12月20日にこれを売却したが,その際に譲渡所得税を納付したことから,確定申告の対象とはならないと考え,申告の対象から除外したこと,原告は,平成13年1月ころ受託者に指示して売却した本件アワード1に係るP5社の株式5240株及び本件アワード3の「vest」時(同年7月3日)に受託者に指示して売却したP7社の株式の売却代金について,これを一時所得として平成13年分の所得税の確定申告をしたこと,原告がこれを一時所得として申告したのは,その当時,原告が勤務していた会社(P14社)の社内で税理士に相談する者が出てきて,ストックオプションであった場合でも一時所得で申告するのでストックアワードについても給与所得ではなく一時所得として申告して差し支えないとの意見が社内で多かったことから,税額の低い一時所得としたのであって,申告に当たり,自ら税理士に相談したり所轄税務署の税務相談を受けたりはしていないこと,本件アワード4及び5については,原告の証券会社の口座への転送を受けたのが平成14年1月であったことから,平成13年分の所得税の確定申告の対象から除外したこと,本件各確定申告当時,外国法人である親会社から日本法人である子会社の従業員等に付与されたストックオプションに係る課税上の取扱いに関しては,法令上の特別の定めは置かれていなかったところ,課税庁においては,ストックオプションの権利行使益の所得税法上の所得区分に関して,かつてはこれを一時所得として取り扱い,課税庁の職員が監修等をした公刊物でもその旨の見解が述べられており,平成9年分の所得税の確定申告がされる時期ころまでは,これを一時所得として申告することが容認されていたが,平成10年分の所得税の確定申告の時期以降は,課税実務上,ストックオプションの権利行使益を給与所得とする統一的な取扱いがされるに至り,平成14年6月24日付け課個2−5ほかによる所得税基本通達23〜35共−6の改正によって外国法人である親会社から付与されたストックオプションの権利行使益を給与所得とする旨の課税上の取扱いが明記されたこと,下級審の裁判例においても上記権利行使益の所得区分に関する判断が分かれていたが,平成17年最高裁判決によって初めて上記権利行使益を給与所得とする旨の最高裁判所の判断が示されたこと,以上の事実が認められ,この認定を左右するに足りる証拠はない。
上記認定事実に基づいて,まず,原告が本件各アワードの「vest」時における本件各アワードに係るP5社の株式等の時価相当額を当該「vest」時の属する年分の所得税の税額の計算の基礎としなかったことについて国税通則法65条4項にいう「正当な理由があると認められる」か否かについて検討する。
前記認定事実によれば,原告が平成12年分の所得税の確定申告に当たり参照したP14社から配布を受けたガイドは,本件ガイドライン(平成12年1月1日発行)ないしこれとほぼ同じ内容が記載された本件アワード・プランに関する所得についての確定申告書作成のガイドラインであったと推認され,これらのガイドラインには,本件アワードに係る経済的利益の課税対象及び課税時期について,本件アワードの「vest」時にその時における当該アワードに係るP5社の株式等の時価相当額の経済的利益が給与所得として課税の対象となる旨が明記されていたものと認められる上,本件各ガイドにおいても,「vest」の際にほとんどの国の参加者はその時の本件アワードの価格に応じた税を支払わなければならない旨明記されていたのであり,少なくとも,上記ガイドラインは,その内容,性格及び作成時期に照らし,P14社においてその当時の課税実務をも踏まえて作成されたものと合理的に推認される上,前記1(2)において説示したとおり,少なくとも,ストックオプションにおいては,権利行使をして初めて当該株式に係る配当の受領,議決権の行使及び当該株式の処分等が可能になるものとされているのが通常であると考えられるのであって,本件アワード・プランとはその経済的利益の実現時期や実現方法を異にする制度であると解され,そのことは,本件各ガイドや上記ガイドラインの記載を読めば容易に理解し得るところというべきである。
このような事実関係の下においては,原告の主張するとおり,原告がストックオプションに関する議論を参考にして,ストックオプションが権利行使による入金等のあった時点で課税される以上,本件アワードについても本件アワードに係るP5社の株式等の売却等の意思表示をした時点で課税されると考えて所得税の確定申告をしたといったような事情が仮に存したとしても,真に納税者の責めに帰することのできない客観的な事情があり,過少申告加算税の趣旨に照らしてもなお納税者に過少申告加算税を賦課することが不当又は酷になるものとは認めることができず,本件各アワードの「vest」時における本件各アワードに係るP5社の株式等の時価相当額が当該「vest」時の属する年分の所得税の税額の計算の基礎とされていなかったことについて国税通則法65条4項にいう「正当な理由」があると認めることはできない。
なお,前記1(3)において認定説示したとおり,本件アワード4及び5についても,本件アワード・プランに基づいてその「vest」時にこれらの本件アワードに係るP7社の株式の時価相当額の経済的利益を確定的に取得していることに変わりはない上,原告は,P14社を退職するに当たり,同社からこれらを含む本件アワードの権利を消滅させずに存続させる措置が受けられる旨の説明を受けるとともにその趣旨が記載された文書の送付を受け,また,これらの本件アワードの「vest」に先立ってその「vest」日の通知を受けて,あらかじめこれらの本件アワードに係るP7社の株式を原告の証券会社の口座に転送するよう受託者に指示していることをも併せ考えると,本件アワード4及び5についてその「vest」後受託者の手違いにより原告において取得した受益所有権の円滑な行使が事実上妨げられたとしても,そのような事情をもって,真に納税者の責めに帰することのできない客観的な事情があり,過少申告加算税の趣旨に照らしてもなお納税者に過少申告加算税を賦課することが不当又は酷になるものと認めることもできない。
次に,原告が平成13年分の所得税の確定申告において本件アワード3に係るP7社の株式の「vest」時における売却代金(及び本件アワード1に係るP5社の株式のうち5240株の売却代金)を一時所得として確定申告をし,本件アワード3ないし5の「vest」時におけるこれらのアワードに係るP7社の株式の時価相当額を給与所得に当たるものとしては所得税の税額の計算の基礎としなかったことについて国税通則法65条4項にいう「正当な理由があると認められる」か否かについて検討する。
前記認定事実によれば,本件各確定申告当時,ストックアワードはもとよりストックオプションについても,これらに係る課税上の取扱いに関する法令上の特別の定めは置かれていなかったところ,従業員等に対する精勤の動機付け(インセンティブ)とすることを企図して設けられた従業員報奨制度に基づき外国法人である親会社から日本法人である子会社の従業員等に付与されたものという点において本件アワード・プランと類似するストックオプションについては,その権利行使益の所得税法上の所得区分に関して,課税庁においてかつてはこれを一時所得として取り扱い,課税庁の職員が監修等をした公刊物でもその旨の見解が述べられており,本件各確定申告時に先立つ平成10年分の所得税の確定申告の時期以降,課税実務上,ストックオプションの権利行使益を給与所得とする統一的な取扱いがされるに至ったが,上記のとおり課税上の取扱いを変更した時点以降,本件各確定申告時を含め,平成14年6月の所得税基本通達の改正によって上記変更後の取扱いが通達に明記されるまでは,通達等において上記取扱いの変更が明示されず,上記権利行使益の所得区分に関する下級審の裁判例の判断も分かれていたというのである。
しかしながら,前記説示のとおり,ストックオプションは,権利行使をして初めて当該株式に係る配当の受領,議決権の行使及び当該株式の処分等が可能になるものとされているのが通常であると考えられ,権利行使益の発生の有無及びその金額がストックオプション付与後の株価の動向と権利行使時期に関する従業員等の判断によって左右されるものということができ,ストックオプションの上記のような性格が,その付与者が外国法人の親会社である場合における当該従業員等の労務提供の相手方と付与者との不一致とともに,当該ストックオプションの権利行使益を一時所得とする見解の有力な根拠とされていたものと解されるところ,前記説示のとおり,本件アワード・プランにおいては,諮問委員会の決定した「vest」時における本件アワードに係るP5社の株式等の時価相当額の経済的利益が従業員等の特段の意思表示ないしこれに係る判断とは無関係に自動的に従業員等に付与される仕組みがとられているのであって,ストックオプションとは従業員等に対し経済的利益を付与する仕組みが基本的に異なっており,この点において,ストックオプションの場合にその権利行使益を一時所得と解する有力な根拠の一つを欠いているというべきである。
このことに加えて,本件アワード・プランに基づいて付与された本件アワードに係る経済的利益については,P14社が作成した本件ガイドラインないし原告が平成12年分の確定申告に当たり参照した同社作成のガイドラインには,前記認定のとおり,本件アワードに係る経済的利益の所得区分について,本件アワードの「vest」時における当該アワードに係るP5社の株式等の時価相当額の経済的利益が給与所得として課税の対象となる旨が明記されていたところ,本件各確定申告当時,既に課税実務においてはストックオプションについてその権利行使益を給与所得とする統一的取扱いがされており,本件各確定申告当時及びそれ以前の時期において,本件アワード・プランに基づいて付与された本件アワードないしこれと類似するストックアワードについて,これに係る経済的利益を一時所得とする課税実務が行われていたことを認めるに足りる証拠はなく,前記認定のとおり,本件ガイドラインないし原告が参照したガイドラインは,その内容,性格及び作成時期に照らし,P14社においてその当時の課税実務をも踏まえて作成されたものと合理的に推認されるのである。
以上のような事実関係の下においては,前記認定のとおり原告が平成13年分の所得税の確定申告において本件アワード3に係るP7社の株式の「vest」時における売却代金等を一時所得として確定申告をしたことについて,その当時,原告が勤務していた会社(P14社)の社内で税理士に相談する者が出てきて,ストックオプションであった場合でも一時所得で申告するのでストックアワードについても給与所得ではなく一時所得として申告して差し支えないとの意見が社内で多かったことから,税額の低い一時所得としたなどといった事情が存したとしても,上記ガイドライン等の記載を読めば,少なくとも本件アワード・プランに基づいて付与される本件アワードとストックオプションとが従業員等に対し経済的利益を付与する仕組みにおいて基本的に異なるものであることを容易に理解することができ,上記ガイドラインの記載にもかかわらず本件アワードに係る経済的利益が一時所得に該当するか否かについて合理的な疑いを生じてしかるべきであったということができるのであり,それにもかかわらず,前記認定のとおり,原告は,申告に当たり,自ら税理士に相談したり所轄税務署の税務相談を受けたりはしていないというのであるから,真に納税者の責めに帰することのできない客観的な事情があり,過少申告加算税の趣旨に照らしてもなお納税者に過少申告加算税を賦課することが不当又は酷になるものとは認めることができない。
したがって,平成13年分の所得税について,本件アワード3ないし5の「vest」時におけるこれらの本件アワードに係るP7社の株式の時価相当額が給与所得に当たるものとしては所得税の税額の計算の基礎とされていなかったことについて国税通則法65条4項にいう「正当な理由」があると認めることもできない。
(3) 以上検討したところによれば,本件各賦課決定処分(ただし,本件各変更決定処分により一部取り消された後のもの)について国税通則法65条4項にいう「正当な理由」があると認めることはできず,本件各賦課決定処分(ただし,本件各変更決定により一部取り消された後のもの)について他の違法事由を認めることもできない。
4 結論
以上によれば,原告の本訴請求は,いずれも,その余の点について判断するまでもなく,理由がないから,これを棄却すべきである。
よって,主文のとおり判決する。

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